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2024.3.14
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多くのビジネスパーソンにとって、喫緊の課題の一つとして挙げられるのが「生産性の向上」ではないでしょうか。私はコンサルタント・研修講師として様々な企業にお伺いしていますが、業種や職種、階層を問わず、どこに行っても必ずといっていいほど生産性の向上が課題として浮上します。
少子高齢化と人口減少による人手不足、長時間労働規制や休暇の奨励、円安と物価高による原価の高騰など、仕事を取り巻く環境は厳しくなる一方です。これまでと同じことを同じように行なっていても、同じ水準の成果を出し続けることが困難になってきています。業績をさらに向上させることはもちろん、これまでと同じ業績を確保するためにも、従来よりも効果的に、効率的に仕事の成果を上げることが求められます。つまり、生産性の向上が求められるのです。
そして、生産性を上げるとする時、多くの方々がITシステムやツールを導入して業務効率を上げることを考えがちです。もちろん、システムやツールを導入して生産性が上がることもありますが、どのようなものを導入するにしてもそのためのコストが発生します。経済的なコストはもちろん、時間的なコスト、精神的なコストを伴うこともあります。
例えば、経理処理の効率化を図るために新しい会計ソフトを導入するとします。ソフトの導入や運用に費用がかかることに加えて、新しいシステムの操作に慣れるために時間も必要になりますし、不慣れなことに挑戦する「面倒くささ」との戦いも求められます。新しいルールや仕様が定着するまでには、運用上のトラブルもたびたび起こります。それらの解決に時間が取られ、煩わしい気持ちに見舞われる状態が続くようだと、効率化のためにおこなっているシステムの導入が、かえって業務の非効率さを招く結果にもなりかねません。
なぜこのような状態に陥るのかというと、現状の業務プロセスをそのまま継続することが暗黙の前提になっているからです。「やること」は変えずに「やり方」を変えることで生産性の向上を図ろうとするため、思うような成果が上がらず、時にはかえって生産性を悪化させることになってしまうのです。
ピーター・ドラッカーは次のような名言を残しているそうです。
「元々やる必要のないことを工夫・改善することほどムダなことはない。」
つまり、「やり方」を変えることよりも、まず「やること」を精査することが重要なのです。「時間をかけるべき仕事」と「時間をかけるべきでない仕事」を切り分け、どの仕事に優先的に時間をかけていくべきかを吟味し、その上で必要なことにだけシステムやツールを投資していくというのが正しい手順だと言えます。
生産性とは「投入資源(INPUT)に対する付加価値(OUTPUT)」の割合を指します。そして、付加価値とは「商品やサービスから得られる収益」と「商材をつくり、販売するまでに使用した経営資源のコスト」を差し引いた経済的な価値を指します。
生産性は分数(割り算)で導かれるものであり、これを改善するするためには4つのアプローチがあります。
同じ投入資源に対して、付加価値を増やすことで生産性を高めるアプローチです。品質やデザイン、アフターサービス、信用力など商材の価値を高めることによって、商品単価や収益性を上げ、投入資源に対する付加価値の割合を向上させます。「つくる」「売る」活動の割合や水準、顧客への提供価値を高めることによって実現できます。
同じ付加価値に対して、投入資源を減らすことで生産性を高めるアプローチです。同じ成果を出すための人数や時間、労力、費用などを減らすやり方で、これを「効率化」と呼びます。不要な業務の見直し、作業手順の改善、省力化、自動化などによって実現できます。
投入資源を減らしつつ、付加価値を増やすアプローチです。最も理想的なシナリオですが、現在のやり方や仕組みの延長で実現するのは容易ではありません。従来とはまったく異なる方法やしくみに入れ替えて、根本的に業務を変えることが必要です。このアプローチを「イノベーション」と呼びます。不確実性が高く、失敗する可能性も大きいですが、成功すれば劇的な生産性の向上が見込まれます。
投入資源をさらに増やすことによって、付加価値を大きく増やすアプローチです。例えば、製造業において旧式の機械設備を新型のものに入れ替え変えることで、生産量や品質を高めることが相当します。設備投資(INPUT)が増えますが、それを上回る成果(OUTPUT)を期待することができます。
上記の通り、生産性を上げるためには様々なアプローチがあります。ただし、これらは「投入資源が、すべて付加価値の創造に結びついている」ことが前提となります。ところが、実際には投入資源のすべてが付加価値の創造に直結しているわけではありません。付加価値の創造に寄与する仕事と、そうでない仕事が混在しているのです。
どんな業種においても、事業に必要な活動は大きく分けると次の3つのいずれかに属します。
製品やサービスを生み出す活動です。製造業や建設業においては、文字通りモノや建物を作ることを指します。ITなど無形の商材であっても、何かしらのサービスを作ります。流通業の場合には商品の仕入れが相当します。サービス業はサービスを提供する行為が「つくる」に相当すると言えるでしょう。
業態によっては複数の「つくる」を行う場合があります。例えば、私の場合であれば、コンサルティングや研修で顧客先に伺い、相談対応や助言、講義をする行為も「つくる」になりますし、コンサルティングのフレームや研修の教材を準備する行為も「つくる」に該当します。
どんなに優れた商品やサービスであったとしても、それが顧客に届かなければ収益になりません。自社の商材を顧客に届けるまでに必要な一連の行為が「売る」活動です。顧客への商談やプレゼンテーションは文字通り「売る」ですが、ホームページやLP(ランディングページ)制作、メルマガやSNSでの情報発信などのマーケティング活動も「売る」に相当します。
「つくる」「売る」活動を計画的に、効率的に、効果的に行うための諸々の活動が「管理する」です。管理とは計画通りに活動を遂行するために、絶えず現状確認と軌道修正を行うプロセスを指します。
管理の活動は非常に多岐に及びます。生産管理や営業管理など「つくる」「売る」の活動を管理することも含まれますが、総務・経理・人事・情報システムなどの本社機能もすべて「管理する」活動に相当します。具体的には、計画立案や進捗管理に要するためのミーティングや報告・連絡・相談、データ収集と集計・分析、ヒト・モノ・カネといった経営資源の調達や運用が該当します。
生産性を上げるために必要なのは、「つくる」「売る」活動に割り当てる資源をできるだけ増やし、「管理する」活動に要する資源をできる限り減らすことです。例えば、朝から晩まで情報共有や進捗把握のためのミーティングに時間を費やしてしまった場合、その日は実質的に何の付加価値も創り出していないことになります。ミーティングは管理のプロセスであり、それをやったからといって1円の請求書も書くことができないからです。さして重要性の低い社内向けの提出物など、形骸化・形式化した資料作成も同様です。
製造業での組立担当者、小売業でのレジ打ちや品出しなどのように、就労時間がすべて付加価値の創造に向けられている場合であれば、作業手順の工夫や改善で生産性の向上が期待できます。しかし、企画開発やマーケティング、営業、マネジメントなどの知的労働においては、作業手順の改善よりも先に考えなければならないことがあります。それは、仕事の中には「付加価値創造に直結する仕事」と「付加価値創造に結びつかない仕事」が混在していることであり、いかにして前者を増やし、後者を減らすかという業務の仕分けです。
知的労働の業務は、大きく分けると「本来業務」と「付帯業務」の2種類に分類できます。本来業務に費やす時間をできる限り増やし、付帯業務に費やす時間をできる限り減らすことによって、仕事の成果(OUTPUT)を上げることができます。
部門や立場、職種が果たすべき役割、生み出すべき成果(付加価値)に直結する業務です。「つくる」「売る」活動の多くがここに含まれます。やればやるほど、事業の成果に結びつくため、できるだけ時間をかけることが望ましいと言えます。
具体的には、戦略・計画・企画立案、研究開発、生産、営業・販売、カスタマーサポート、業務の改善・標準化・自動化、制度設計・仕組みづくり・運用、問題解決のためのミーティングなどが挙げられます。
付帯業務をできるかぎり削減して、創出した時間を優先的に本来業務に投下することで、生産性を上げることができます。
本来業務を遂行するにあたって、組織としての運営・管理上行わなければならない仕事です。「管理する」活動がこれに該当します。仕事の成果に直接的に影響しないため、なるべく時間をかけないようにすることが望ましいです。
具体的には、予定調和な議事や報告のためだけの形式的な会議・ミーティング、形骸化した報告業務、資料作成、組織内部の自己満足な資料作成、不毛な来客・問い合わせ対応が挙げられます。
業務の目的や効果に立ち返り、必要に応じて「やめる」「減らす」「変える」ことが必要です。
製造や営業など、文字通り「つくる」「売る」を行う職務においては本来業務と付帯業務の線引きはわかりやすいでしょう。一方、総務や経理、人事などの管理部門は「管理する」ことが仕事ですので、付加価値につながる本来業務を選定するのは難しく感じられます。しかし、管理部門の仕事にも本来業務と付帯業務があるのです。
組織における管理部門の重要なミッション(使命)は、
の2つです。つまり、製造や営業などの部門に従事する従業員が「つくる」「売る」以外のことに時間を取られないようにするための環境構築と、人的・法的・経済的なあらゆるリスクを回避することが最重要任務なのです。
具体的には、従業員の労働環境を整備するための制度設計やシステム導入と運用、経営資源の調達と運用の現状把握と計画立案、軌道修正が管理部門における「本来業務」であり、それ以外のことは大部分が「付帯業務」に相当します。
例えば、人事部門においては、採用と教育、人事制度設計と運用定着が「本来業務」であり、給与計算や休暇管理、年末調整などが「付帯業務」です。経営部門においては、財務諸表に基づく経営分析と課題解決策の検討が「本来業務」、伝票入力や入出金管理が「付帯業務」です。ITツールを導入するなど、付帯業務に要する時間や労力をできる限り削減し、その分を本来業務に割り当てることで、労働環境整備と経営リスクマネジメントの品質をさらに高めることができます。これが管理部門における生産性向上です。
知的労働の生産性を上げるためには、付帯業務をできる限り削減して、限られた資源(特に時間)を本来業務に優先的に割り当てることで、付加価値を創出する仕事に集中することが重要です。生産性は投入資源に対する付加価値の割合ですから、付加価値の創造につながらない仕事はノーカウントになってしまうのです。
まずは、自分が行なっている仕事をすべて棚卸し、それを本来業務と付帯業務に分類してみましょう。付加価値の創出につながっているかどうかの判断が難しいと感じることもあるかもしれませんが、
を直感的に判断するので構いません。時間をかけて吟味しても、直感的な判断とそう大差がない結果になると思われます。
そして、付帯業務にできるだけ時間をかけずに済むように、可能な限り省力化・自動化していくことが必要です。業務効率化のECRS原則に基づいて「減らす」「統合する」「プロセスを変える」「簡素にする」を検討し、限られた資源を本来業務に集中させていきます。
最近ではChatGPTなどの生成AIの登場により、知的労働の業務効率を劇的に上げることも可能になっています。RPAなどの自動化ツールと生成AIを組み合わせることで、定型的・形式的な仕事をほぼノータッチで自動的に処理することもできます。
そして、本来業務に資源を集中的に投下できるようになった上で、本来業務のプロセス改善やツール導入、イノベーションを図っていくことで生産性をさらに高めることができるようになるのです。
あなたが優先的に時間をかけるべき本来業務は何でしょうか。そこに集中するために、削減・効率化するべき付帯業務は何でしょうか。ぜひ一度、自分の仕事を俯瞰して考えてみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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