生成AIは超優秀な指示待ち部下!使いこなすにはビジネススキルが必要

*この記事は2024年7月に配信したメールマガジンの内容を編集したものです。最新の記事をご覧になりたい方は、弊社メールマガジンにご登録をお願いいたします。

AIは使い手によって竹槍にも戦車にもなる

米国OpenAI社が2022年11月にChatGPTをリリースして、はや1年半が経過しました。最初のGPT-3.5から、GPT-4、GPT-4oとバージョンアップを繰り返し、生成される文章の質も、スピードも、拡張機能もまたたく間に進化しています。

リリース当初は1強だったChatGPTに加えて、GeminiやClaudeなど強力な競合も出現し、競争は激化の一途を辿っています。開発側は大変でしょうが、ユーザーとしては技術がどんどん進歩するのはありがたい限りです。

現時点でも相当に優秀な生成AIですが、今後もさらに進化を重ねていくことが予想され、2〜3年後には現在とは比較にならないほど高性能になることが期待されます。たった2〜3年と思われるかもしれませんが、15年前を振り返ってみれば、iPhone3がiPhone4Sになった際には別物と思うほどの進化を遂げていました。マイケル・オズボーンが論文「雇用の未来」の中で、人間の仕事をAIが代替するようになると述べて12年が経過。その未来がいよいよ真実味を帯びてきたと言えるでしょう。

しかし、すべての人がAIの恩恵を受けて生産性を大きく向上させるかというと、必ずしもそうとは限らないと私は考えています。というのも、AIを実際に仕事に役立てられるかどうかは「使い手の力量」に大きく左右されるからです。

生成AIは、入力された指示文(プロンプト)に後続する文章として、統計的に確率の高い文章を生成するという仕組みで作られています。自分の期待するイメージに合致する生成物を作れるかどうかは、プロンプトに入力する文章を、どれだけ構造的に、具体的に書けるかどうかに依存します。

例えば、「ウチの会社の経営戦略を作成して」というのと「当社は○○の事業をしています。強みは□□で、弱みは××です。当社を取り巻く主要な外部環境の変化を挙げて機会と脅威に分類し、SWOT分析に基づいて重要な経営課題を3つ挙げてください」と書くのでは、結果がまるで違うものになるのです。

また、生成AIの結果にはハルシネーション(デタラメを真実のように語る)のリスクが付き物です。事実情報を検索して返すのではなく、統計的確率に基づいて「それっぽいもの」を書くという性質上、入力したプロンプトによっては事実と異なったり、論理的に破綻していたりする文章が作られる可能性は否めません。それを見極めて、評価し、採用するか修正するかを判断するのは人間の仕事なのです。

そこで求められるのはAIの知識ではありません。ビジネススキル、すなわち仕事力です。つまり、ベースのビジネススキルが高い人ほど、生成AIを上手に活用できるのです。自力の仕事力が低い人がAIを使っても、竹槍程度の戦力としてしか使いこなせません。しかし、論理思考力やコミュニケーション力、経営・マネジメントに長けている人がAIを使えば、戦車のように強力なウエポンとして活かすことができます。

生成AIは生産性を劇的に向上させ、私たちの仕事をラクにしてくれることが期待できますが、その恩恵を受けられるのは元々ビジネススキルの高かった人だけです。生成AIがこれから大きくビジネスシーンを変えていくことが見込まれるからこそ、私たちは一層、ベースのビジネススキルを高めていく必要があるのです。

生成AIを使いこなすにはコミュニケーションスキルが必要?

生成AIをうまく活用するために必要なスキルの1つが「コミュニケーションスキル」です。なぜなら、生成AIに期待通りのアウトプットを出してもらうためには、こちらのニーズを的確に言語で表現して、プロンプトとして記述することが必要だからです。

生成AIはしばしば部下に例えられます。AIはあらゆるジャンルに精通した博識で、与えられたタスクに瞬時に取り掛かりスピード納品できるけども、自分の意思を持たない主体性ゼロの部下です。この部下のパフォーマンスを存分に引き出せるかどうかは、上司となる自分の力量が問われます。こちらの期待を明確に、具体的に伝える必要があります。これは人間の部下に指示を出す時も同じです。

例えば「この資料、なる早でいい感じに作っておいて」という指示では解釈の余地がありすぎて、どのようなものを、いつまでに仕上げれば良いのか判断しかねます。部下が自分なりの判断で仕事を進めた結果、上司から「違う。こういう感じじゃない」「遅い。もっと早く」と言われても、「だったら先にそう言ってくれ」となるわけです。あまりにも理不尽です。

上司には自分のイメージを明確に、具体的に伝える技術が求められます。例えば「この資料、明日の幹部会議で配るので急ぎで仕上げて欲しい。A4サイズ1枚で、概要の説明文4〜5行程度と根拠を示すグラフを盛り込み、役員が読みやすいように12pt以上のフォントで作ってください。今日の18時に提出なんだけど、私も目をチェックしたいので、まずは17時までに一通り仕上げてもらえますか。」

ここまで具体的に伝えられれば、誤解はほぼなくなるでしょう。単に作業指示を出すだけではなく、仕事の背景や目的も含めて説明するのも有効です。前提条件に関する情報が増えるほど、全体像や構造が理解しやすくなります。

生成AIを使いこなすためには、自分の意図やイメージを的確に伝えるコミュニケーション能力が必要です。説明力はもちろん、相手の力量や癖を踏まえて、相手に合わせて表現を調整できる理解力も求められます。人間の部下のパフォーマンスを引き出すのも、生成AIのパフォーマンスを引き出すのも、求められるスキルや動作は同じです。AIを使いこなせるようになれば、きっと人間の部下もうまくマネジメントできるようになるでしよう。

生成AIは「最強の指示待ち部下」である

ChatGPTなどの生成AIを活用する上で、注意しなければならないことがあります。それは、生成AIを情報収集のための検索ツールとして使用しないことです。

事実の情報を収集するのであれば、これまで通りGoogle検索でググりましょう。webサイトも音声も動画も、人の手を介して意図的に作り出されたものなので、悪意や事実誤認がない限りは、事実を正確に表示してくれます。

一方、生成AIは入力されたプロンプト(指示文)に対応する文章を、統計学的にその場で作り出すものです。プロンプトの内容によっては、ハルシネーションを引き起こすことが構造的に避けられません。

ハルシネーションとは「誤った情報をさも真実っぽく語る」という意味です。日々バージョンアップを重ねている現在の生成AIではだいぶ是正(チューニング)されてきているものの、まだこうした現象が見られることがあります。しかし、これは生成AIの原理上どうしても起きてしまいがちで、完全にゼロにすることは極めて難しいと言えます。

例えば、生成AIに「日本人のイケメンを教えて」と尋ねたとしましょう。回答として、吉沢亮さん、新田真剣佑さん、横浜流星さん、菅田将暉さんなどの名前が挙がるでしょうが、その中に狩野英孝さん(ラーメン、つけ麺、僕イケメン)、日村勇紀さん(心がイケメン)の名前が挙げられることも考えられます。言語情報を機械的に分析して、統計的な確率の高いものを返す仕様である以上、ある意味では正しい動作なのです。

したがって、生成AIを調べ物に使うのはあまり適切な使い方とは言えません。生成AIの使い方は「事実情報を提示した上で、それについて作業をさせること」です。つまり、生成AIは情報収集のツールではなく、作業代行、思考代行のツールなのです。

  • 長い文章を読み込ませてそれを要約させる
  • 短い文章やキーワードを提示して、それを膨らませる
  • 何かのお題を与えて、それについてアイデアを出させる

など、思考を伴う作業を代わりにやってもらうのが生成AIの使い道です。

これは例えるならば、人間の部下に作業を指示してやってもらうことに近しいと言えます。生成AIは、こちらの指示や命令に迅速に対応し、猛スピードで仕事を仕上げてくれる優秀な部下だと言えます。加えて、政治・経済から芸能・家庭に至るまであらゆるジャンルに精通した知識を持ち、何度でもやり直しをさせることが可能で、労働時間の管理も必要ない非常に使い勝手の良い部下なのです。

ところが、人間の部下にあって、生成AIにないものがあります。それが「主体性」です。生成AIはこちらの指示がない限り、何の作業もしません。空気を読んだり、先読みしたり、1聞いて10理解したりすることもありません。主体性ゼロの「最強指示待ち部下」なのです。

これからの時代は、すべてのビジネスパーソンは、この最強指示待ち部下の力を活かして仕事をしていくことになります。生成AIができることは、生成AIに任せてしまった方が、質の高い仕事を高速に進めることができます。

一方、生成AIが絶対にできない「主体性の発揮」は人間ならではの仕事として残ることになります。生成AIが普及する時代においては、答えのない課題に対して、自ら考えて行動する「自律型人材」であることが、人間ならではの役割を果たすことにつながることでしょう。

生成AIによって変わる組織のマネジメント

従来の組織は、すべて人間が仕事を行う前提で設計されていました。パソコンやスマートフォンなどのコンピュータが配備されていましたが、それはあくまでも人間の能力を補強するという位置付けで、あくまでも主体は人間。これからはこの前提が変わります。組織には2種類の働き手が存在するようになるのです。

1つは「生成AIによって能力が増強された人間」、もう1つは「生成AIそのもの」です。マネジャーは、組織の様々なタスクについて、それぞれを人間とAIのどちらに委ねるかを判断し、適切な作業分担を行うことが求められます。生成AIに任せられる仕事は、自分で生成AIに指示を出して終えてしまう。生成AIに任せられないことだけ、人間の部下に指示を出すことになります。

その上、人間の部下もまた、生成AIを使って仕事を進める前提になります。そのため、とりわけ業務経験の浅い部下に対しては、「生成AIをどのように使うか」という助言も含めた指示を出すことが必要になります。したがって、これからの時代のマネジャーには下記の2つのスキルが求められることになると言えるでしょう。

1つは「生成AIの操作スキル」、もう一つは「AIができること/できないことを見極めるスキル」です。マネジャー自身が生成AIを操作できなければ、すべての仕事を人間の部下に割り当てる旧型のマネジメントしかできなくなります。この場合、生成AIを使えるマネジャーとの生産性の差は著しく開くことになるでしょう。つまり、AI操作スキルのリスキリングは、すべてのマネジャーに避けられない重要課題となるのです。

そして、それ以上に重要なのが、AIにやってもらう仕事と人間にやってもらう仕事の見極めです。これを適切に判断するためには、AIが「できること」と「できないこと」を本質的に理解する必要があります。私自身も含めて、生成AIの活用方法について様々な方が情報発信をされていますが、具体的な事例を知るだけでは不十分です。まったく同じようなケース、表現であれば「自分の仕事にも適用できるかもしれない」と気づきを得るかもしれませんが、これでは応用が効きません。

生成AIがどのようなメカニズムで動いていて、それを人間の能力に置き換えたときにどの部分に相当するのか。それを本質的に理解することによって、AIと人間の役割分担が適切にできるようになるのです。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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