AIに仕事を取られない人材でいるために必要な目標設定力

*この記事は2024年8月に配信したメールマガジンの内容を編集したものです。最新の記事をご覧になりたい方は、弊社メールマガジンにご登録をお願いいたします。

AIにはできず、人間だけができること

「AIが人間の仕事を奪う」

マイケル・オズボーンの論文「雇用の未来」に端を欲したこの刺激的な表現が、10年以上前からたびたび経済メディアなどで用いられてきました。

とはいえ、多くのAIは認識や分類、予測など決められた成果物しか作成することができず、人間の仕事を奪うというのは誇張しすぎだと思われてる節もありました。それが、ChatGPTをはじめとする自然言語処理の生成系AIの登場によって、いよいよ真実味を帯びてきたのが現在だと言えるでしょう。

正確に言えば、AIが人間の仕事を奪うのではなく「AIを使える人間が、AIを使えない人の仕事を奪う」のですが、作業レベルで考えれば、従来は人間がやっていたタスクの多くを人工知能が代替できるようになることには間違いありません。すると、果たしてAIが普及した世の中で、人間は何をすることになるのかという疑問が、当然湧いてくるわけです。

結論から言えば、AI時代において人間がやるべきことは、大きく言えば下記の6つになります。

  1. ビジョン・あるべき姿・目標の設定
  2. 課題の発見・創造
  3. AIに対する指示出し
  4. AIの生成物の評価、修正指示
  5. 意思決定
  6. 人間との深いコミュニケーション

これはいずれも、人工知能にはできない「人間だからこそできること」なのです。

人間の仕事は、複数の知的活動が組み合わさって構成されています。具体的には、記憶・計算・思考・感情・意思です。そのうち、記憶と計算はデジタル化が可能で、AIによる代替が見込まれます。

人間の脳で記憶を担当している部位が「側頭葉」、計算を担当している領域が「頭頂葉」と大脳の一部です。ここで行われる情報処理は論理的に表現することが可能で、プログラムとしてコンピュータに実行させることができます。

一方、思考や感情はプロセスを論理的に表現することができません。そもそも、プロセスが解明できていないとすら言えます。「考えるとは何なのか」「感じるとは何なのか」このプロセスを論理的に言語で記述するのは、現時点では不可能だと言っても過言ではないでしょう。

また、意思は人間の欲求から生まれるものであり、これは「生命」ではないコンピュータには決して再現できません。思考・感情・意思は、脳の前頭葉(前頭前野)で行われる高度な知的作業です。他の生物と比べて前頭葉が発達していることが人間の特徴であり、まさに人間たる証とも言えます。

上記の6つはいずれも、思考・感情・意思を総合的に組み合わせて行う高度な知的作業です。たとえ、AIが膨大な情報量を持っていて、高速で計算ができるとしても、それを「何に使うのか」「何のために行うのか」という問いを自律的に立てることはありえません。

AI時代において人間が行うべきことは、夢や理想を掲げて課題を創造し、その課題解決に向けてAIを使い、AIの生成物を評価、修正することです。そして、AIの力を借りて導いた答えに対して意思決定を行い、コミュニケーションを通じて他者を巻き込んで現実を動かしていくことだと言えるでしょう。

「考える」「感じる」「願う」

もっとも人間臭くてアナログなこうした活動こそが、これからの時代に求められる「人間ならでは」の仕事なのです。

オペレーションは自動化する、イノベーションは人間がやる

生成Aはものすごいスピードで進化しています。つい2ヶ月前に、Claudeの新バージョン「3.5 sonnet」がChatGPT-4oの性能を追い越したことがニュースになったばかりでしたが、先月には「ChatGPT-4o mini」という高速で安価なモデルがリリースされて、無料ユーザーやAPI利用のエンジニアへの提供価値を大きく高めました。

リーダーシップやマネジメントの講義で生成AIの話をする以上、私もなんとか追いつかなければと必死ですが、正直ニュースに追いつくのが精一杯で、すべて自分で試す時間が取れていないのが実情です。たった1〜2年でこの変化ですから、本当に5年後にはビジネスシーンを一変させてしまうことが予想されます。

具体的にどのように変わるのかというと、人間の仕事がオペレーション(運営)からイノベーション(革新)へとシフトしていくと考えられます。オペレーションに必要なのは、決められた方法や手順を遵守して作業を行うことです。品質や所要コスト、納期などをコントロールして、成果を一定以上のレベルに保つためには、作業手順を明確にして遵守することが欠かせません。

そして、作業手順を明確にするということは、プログラムとして記述できることを意味します。つまり、デジタル化、コンピュータ処理が可能となるのです。とはいえ、通常のプログラムでは、少しでもイレギュラーが発生して状況判断が迫られると、そこで動作が停止してしまいます。そのため、不確定要素が微塵でもあれば「完全自動化」はできなかったと言えます。しかし、生成AIの登場によって、この「ちょっとした判断」をコンピュータに任せられるようになりました。

例えば、請求書の処理を行う場面を考えてみましょう。すべての取引先が同一のフォーマットで請求書を送付してくれれば、仕訳入力は完全に自動化ができます。しかし、実際にはみなバラバラの書式や表記で送ってきます。従来のコンピュータは表記通りに情報を読み取るため、「発注日」と「注文日」、「価格」と「金額」、「振込先」と「入金先」がそれぞれ同じことを指していると理解できませんでした。

しかし、ChatGPTはPDFや画像を読み取ることができます。そして、記載されている言葉だけではなく、その内容をも読み取ろうとするため、この判断をAIに任せることができるのです。これまで、こうした「ちょっとした判断」が必要であったために自動化できなかった作業が、AIによってどんどん自動化できるようになります。そのため、オペレーションはどんどんAIに委ねられていくでしょう。

では、人間は何をするのかというと、イノベーション(革新)を行うことになります。イノベーションとは、従来の延長線上ではなくゼロベースで新しい価値を創造する「非連続的な成長」を起こすことです。イノベーションを進めるためには、新しい発想、着想が必要です。これは大量の過去データから統計的に答えを出すというAIのメカニズムでは困難なアプローチです。AIが得意な「正攻法」の逆を求められるのがイノベーションだからです。

「イノベーション理論」を提唱したヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを「資源の新結合」と表現しています。異質なものを、従来とは異なるアプローチで大胆に、奇抜に掛け合わせることで新しい価値を生み出すのです。そして、現状維持を打破し、新しいことに挑戦するためには、リーダーシップも必要です。

ビジョンを描く、方向を示す、率先垂範する、決断する、人々を動機づけるといったリーダーシップ行動の数々は、いずれもAIには無理な領域です。生成AIが発展し、普及するこれからの時代においては、オペレーションは機械に委ね、人間はイノベーションを推進するようになります。そこで求められるのは、クリエイティブな思考、問題解決力、リーダーシップ、感性、情緒性など、AIにできないことばかりです。AIと役割を分担するためにも、私たちは「人間にこそ求められる力」を磨き続けていく必要があると、私は考えます。

欲深い人が成功し、無欲な人は失業する

生成AIが具体的で定型的な作業を代わりにやってくる時代が到来することで、人間の仕事は「AIに何をやらせるか」を考えることが中心となっていきます。別の言葉で言えば「課題を創造すること」こそが人間にしかできない、人間の仕事となります。

課題とは「問題を解決するために行う取り組み」のことです。一方、問題とは「理想(あるべき姿)と現状との間に乖離があること」を指します。そのため、課題は「ポジティブな行動」として表現され、問題は「ネガティブな状態」として表現されます。

例えば、売上拡大、生産性向上、人材育成、採用力強化、業務効率化、などは「課題」となります。売上低迷、生産性低下、人材のスキル低迷、人員不足、業務効率がわるい、などは「問題」となります。つまり、問題と課題は表裏の関係にあり、問題を見つけられると課題が創造できるということになります。

そして、この問題発見力に大きく影響を与えるものが「欲」です。欲が深い人ほど、より多くの問題に気づくことができ、課題を想像することができます。なぜなら、欲が深い人ほど「理想(あるべき姿)」の水準が高いからです。

問題は理想(あるべき姿)と現状との乖離です。逆に言えば理想と現状に乖離がなければ「問題ない」という状態になります。つまり、理想が低ければ、問題は発生しなかったり、発生したとしても小さい問題にとどまってしまいます。

一方、欲深い人は理想(あるべき状態)の水準が高いです。

  • あれが欲しい、これが欲しい
  • あれをやりたい、これをやりたい
  • ああなりたい、こうなりたい

追い求めたい理想が高いからこそ、欲が出てくる。現状と理想の差が大きいから、そこに問題を認識します。欲があるからこそ、問題を解決しようとして、課題を生み出すことができるのです。

AIが実務をやってくれるようなれば、人間のやることは「課題をつくること」「AIの仕事を評価し、追加修正指示を出すこと」「実行に移すこと」に集中するようになります。欲深い人間の方が多くの課題を創れるようになるので、成功していきます。逆に、欲のない人間は問題を認識できず、課題を作り出せないため、AI時代においては人間がやるべき仕事を果たせないということになってしまいます。

欲は現状をより良くし、自らを高めていくための原動力です。自分の欲に正直になり、欲深く生きていきましょう。

無茶な目標を立てよう

定型的な業務や簡単な作業をAIがやってくれるようになると、人間がやることはAIへの指示出しと成果物の評価、複雑な課題解決、人との感情交流、意思決定などに集中していきます。

中でも重要なのが、課題解決。AIはとても博識で、高速で作業をすることができますが、自ら課題を設定することはできません。言われたことだけを行う、超優秀な「指示待ち部下」なのです。

課題を設定する際に有効なのが、できるだけ高い目標を立てることです。一見すると無茶に見えるような目標を立てるのも良いでしょう。AIには人類の叡智が詰まっています。自分では知らないような様々な方法に関する情報が、あらゆる分野について格納されています。課題さえ設定できてしまえば、その解決方法はいくらでもAIが教えてくれるのです。

これまでは課題解決策を自分で考えなければならなかったため、「現実的な目標」を設定することも必要でした。高い目標を掲げたところで、どうせできるわけない「絵に描いた餅」に映ってしまうためです。

しかし、それは自分の力だけでやろうとしていたから無理なだけです。資源の調達やネットワークの作り方も含めて、どのように実現するのかを博識なAIと相談できるのですから、目標はできるだけ高くした方が、より大きな成果を見込めるとします。

例えば、フリーランスの方が事業の売上をもっと伸ばしたいとします。現状の売上が800万円だとして、それを1,000万円に伸ばすのと、2,000万円に伸ばすのと、1億円に伸ばすのとでは、やるべきことがガラリと変わってきます。

1,000万円にするなら、現状の仕事のやり方で案件を増やせばいけるかもしれません。2,000万円にするなら、単価アップや新サービスの開発が必要となってきます。1億円にするなら、一人ではとても難しいです。必然的に、事業を組織化していくことを考えることになります。

800万円を1億円にするなんて無茶苦茶だと思うかもしれませんが、AIは無茶だとは言いません。目標と現状の乖離がどれだけあったとしても、それを埋めるための方法を、人類の叡智から引き出してくれるのです。

高い目標を設定するのを恐れるのは、自分だけでやろうとしているからです。しかしそれは、「自分は、自分一人でできるレベルのことに収まる程度の人間です」と言っているようなものです。他の人と協働することを前提にすれば、より大きなこと、より難しいこともで実現できます。

歴史上、偉大なプロジェクトは人の知恵と力が結集して実現されてきました。いまの自分から限界突破を果たすためには、自分だけではできないことに挑戦する必要があります。AIができたことによって、そのハードルがかなり低くなってきました。

まずは、勇気を出して、高望みの目標を実現するための方法を生成AIに尋ねてみましょう。

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投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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