コミュニケーション
2026.3.18

目次
3月に入り、人事評価の時期を迎えている方も多いのではないでしょうか。
人事評価は、単に給与やボーナスの査定を行うためだけのものではありません。人材育成を行う上でも非常に重要な機会となります。
その期間に「できたこと」「できなかったこと」を明らかにし、次のレベルに進むためにどのような課題があるのかを明確にすること。そして、次の期に向けた目標設定を行い、そこに向けて動機付けを行っていくという、とても重要な役割を担っています。
とはいえ、上司・管理職が部下の評価を行うことは、なかなか大変なことでもあります。上司の立場からすると、部下の言動を四六時中観察しているわけではありません。依頼した仕事の結果は確認できても、その結果に至るまでのプロセスの全てを常に把握しているわけではないのです。
実際のところ、どのようなプロセスを経てその結果になったのかは、こまめにコミュニケーションを取り、本人から話してもらわなければ分かりません。しかし、現実には皆さん忙しいため、1つひとつの仕事に対して詳細な報告を受けることも、する側が逐一伝えることも難しいのが実情です。
その結果、コミュニケーションが不足した状態のまま評価のタイミングを迎え、半期あるいは1年間の評価をまとめて行うという形になってしまいます。

こうした状況が生まれると、自己評価と上司評価が食い違うという問題が発生します。近年、自己評価を導入している企業はかなり増えており、私が人事制度の支援に入る企業に対しても、自己評価の実施を必ずお願いしています。
仕事の状況を正確に把握していない上司から一方的に評価点を告げられるだけでは、本人の評価と一致していれば納得できるものの、そうでなければ「なぜそうなるのか」という気持ちが生じるのは自然なことです。そして、その不満を伝える場がなければ、不満を抱えたまま次の期に向かうことになり、モチベーションの低下、場合によっては離職という事態にもつながりかねません。
だからこそ、自己評価と上司評価の食い違いをオープンにする場が必要です。それが評価面談です。本人にとっては自分の努力や功績をアピールする場となり、上司にとっては部下の承認すべき点を承認し、改善が必要な点に対してフィードバックを与えて課題設定を行う場となります。
このような認識のすり合わせを定期的に行わないと、お互いが異なる認識のまま仕事を進めることになり、日頃の報告・連絡・相談の段階からズレが生じてきてしまいます。
それでは、自己評価と上司評価が食い違っている場合のパターン別のフィードバック方法を見ていきましょう。3つのパターンに分けてご説明します。
1つ目は「本人評価が上司評価を上回っている場合」です。もちろん、上司が部下のことを十分に把握できておらず、本人評価の方が正しいという場合もあります。しかし多くの場合は、上司が期待する水準に達していないにもかかわらず、本人は「できている」と思っている自意識過剰のパターンです。この場合は、大きく2段階で面談を進める必要があります。
まず最初のステップは、一致点の承認です。評価項目の中には、上司と本人の評価が一致している項目もあるかと思います。すべての項目で認識が食い違っていることは、現実には考えにくいです。
まずはその一致しているポイントに焦点を当て、「この点については私も同意見です」という形で、肯定的なムードで評価面談を進めていくことが大切です。そのうえで、評価の解釈が異なっている項目について、具体的な事実をもとにフィードバックを行います。
例えば、評価項目に「コミュニケーションと協調性」という項目があり、上司評価は低いが本人評価は高いという状況になったとしましょう。
この場合、フィードバックには「I(アイ)メッセージ」を活用することが重要です。Iメッセージとは、「私」を主語にして伝えるということです。
「あなたはコミュニケーションが取れていない」「協調性がない」といった言い方では、相手が自分の人格や能力そのものを否定されていると感じ、反発を招いてしまいます。
あくまでも「私にはこう見える」「こう感じる」「こう思う」という形で伝えることで、相手の自尊心を傷つけることなくフィードバックが可能となります。
さらに、このIメッセージとあわせて活用したいのが「PREP(プレップ)法」です。PREPとは、P(Point:結論)→R(Reason:理由)→E(Example:具体例)→P(Point:結論)の順番で話を構成する手法です。理論的な説明と、具体的な描写の両方を示せるので、理解度と納得感が高い伝え方ができます。
例えば、このように伝えます。
まず結論として「コミュニケーションと協調性に関しては、私はもう少し点数が低いと思っています」と明確に伝えます。
次に理由として「報告・連絡・相談自体はできているのですが、タイミングが遅い印象があります。特にトラブルが起きた際の第一報の報告がかなり遅く感じられます」と述べます。
そして、具体例として「先週のB社の納品の件でトラブルがありましたね。あの際、最初の報告を私が受けたのは状況が発生してから半日も経った後でした。もし発生した時点ですぐに報告をもらっていれば、別の手を打てたかもしれません」と事実を挙げます。
最後に、もう一度結論として「そのため、コミュニケーションと協調性についてはまだ改善の余地があると私は思っています。来期は報告のスピード、特にトラブル発生時の情報共有をいち早く行うことを中心に、日頃の報告・連絡・相談を心がけてください。」と伝えます。
1つひとつの項目に対してこれを行うのは大変ですが、認識がズレたまま半年・1年と動き出す方が、日々の業務において結果的にもっと大変なことになります。このタイミングでしっかりと認識のズレを確認し合うことが非常に重要です。
2つ目は、「本人評価と上司評価が一致している場合」です。このパターンは最もスムーズに進めることができます。「あなたもそう思うのですね。私もそう思っていました」と確認するだけで基本的には済みます。
ただし、点数が一致していても、その根拠が食い違っている可能性があります。「一致しているから終わり」とせず、「この主体性の項目が3点になっているのですが、何が3点の理由だと思いますか?」といった形で、自己評価の根拠をヒアリングすることが大切です。
根拠を聞いていく中で認識のズレが見つかれば、上司側の考えや観点もしっかりと伝えていきましょう。表面的な点数だけでなく、その中身・理由においても認識のすり合わせを行うことが必要です。
そのうえで、次の段階に向けた目標設定も忘れずに行います。例えば5段階評価で3点がついている項目については、どうすれば4点・5点になるのかという助言も添えられると良いでしょう。
3つ目は「本人評価が上司評価を下回っている場合」です。このパターンには、2つの可能性を疑う必要があります。1つは、本当に自信がなく、実際には十分できているにもかかわらず本人が「できていない」と思っているケースです。
もう1つは、「謙遜戦略」とも言えるもので、本心では自分の評価を高く思っていながらも、高い点数をつけると「生意気だ」「調子に乗っている」と思われるかもしれないと考え、わざと低めに自己評価を設定して、上司から「そんなことはない、もっとできているよ」と引き上げてもらうことを狙っているケースです。
どちらの説かを見極めるために、まずは自己評価の根拠をヒアリングすることが必要です。「この問題解決能力が2点になっていますが、なぜそう思うのですか?」というように問いかけていきます。
本当に自信がなくて低い点数をつけているのであれば、自己効力感を高めていくアプローチが必要です。上司から見てどのように映っているかを、事実を根拠にしてIメッセージで伝えましょう。「問題解決能力を2点にしていますが、私は2点ということはないと思います。先週のC社のトラブルの際、あなたはまず自分で情報を集めて整理・分析し、原因を早期に特定できましたね。それは問題解決能力が高いことではないでしょうか」というように、具体的な事例を挙げて承認・励ましを与え、本人が自分のやってきたことに自信を持てるよう導いていきます。
一方、謙遜戦略による低評価であった場合は、評価基準を一緒に確認するアプローチが有効です。「2点の評価基準を一緒に見てみましょう」と評価基準を読み上げてすり合わせを行うと、「いや、そこまでではないですね。では3点くらいはできていますね」と本人から言い出すことが多いです。
もちろん承認・励ましをすること自体は良いことですが、基準を確認しながら「あなたの場合はこれは2点ではなく3点に相当しますよ」と1つひとつ確認していかないと、毎回同じことの繰り返しになってしまいます。なるべく本人評価と上司評価が一致した状態に近づけていけるよう、「このような場合は3点」「このような場合は4点」という共通認識を作っていくことが重要です。

いずれのパターンにおいても、評価面談の重要な役割は「現状を確認し、次の課題を設定して目標を定め、来期に向けて送り出すこと」にあります。
本人が自分をどう評価しているかと、上司から見てどのように映っているかが必ずしも一致しない場面は必ず出てきます。それぞれの場合に応じてフィードバックの方法を適切に使い分けていただくことが大切です。
特に、本人評価が上司評価を上回っている場合は、対応を誤ると本人のプライドを傷つけることにもなりかねませんので、具体的な事実に基づくフィードバックと、あくまでも「私にはこう見える・こう感じる・こう思う」というIメッセージでの伝え方を心がけてください。
これができるようになると、認識のすり合わせがしやすくなり、部下との良好な関係を維持しながら人材育成を進めていくことができるでしょう。部下への伝え方に悩んだ際の判断材料として、ぜひ活用してみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役社長。「デキる人を増やして社会をもっと快適にする」を理念に、人事・組織コンサルタントや研修講師として活動。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。登壇実績 862件、1,015日間(のべ受講者数17,334名)*2025年12月末現在
