リーダーシップ
2025.4.14
目次
現代のビジネスシーンにおいて、リーダーに求められる重要な要素の1つは「人間性」です。
これは決して今に限った話ではありませんが、昔から企業の不祥事がたびたび起きています。記憶に新しいところでは、某家電メーカーの粉飾決算問題、某中古車販売の営業手法の問題、直近では某テレビ局のコンプライアンスやガバナンスの問題など、耳を疑うような出来事がしばしば発生します。
このような不祥事は、一体なぜ起きるのでしょうか。経営者やリーダーの能力が不足しているのか。いや、決してそうではないでしょう。
大きな組織の経営者を務めるほどですから、おそらく能力という面では優秀であることでしょう。しかし、「優秀であること」と「不祥事が起きないこと」は必ずしも関連しているとは言えません。能力とは別の問題なのです。何が欠けているかといえば、それは「人間性」や「倫理感」です。
仕事をする上では、当然ながら結果を出さなければなりません。結果を出せるかどうかは優秀さや能力に影響を受けますが、一時的な成功ではなく長期的な成功を目指す上では、リーダーには人間性という要素が欠かせません。
現代はSNSの普及により、裏で行われていることであっても、すべてが明るみに出てしまう時代です。昔は、たとえ裏で何かやっていたとしても、それが世間の目に晒されることは少なく、表向きうまくいっていればなんとかなっていたという側面もあります。
しかし、現代社会においては、物事を隠し通すことは非常に困難です。隠そうとすればするほど、またたくまに情報が拡散されてしまいます。
いま私たちに求められているのは「清く、正しく、美しく、儲ける」という姿勢です。「結果良ければ、すべて良し」では済まされないのです。正しいプロセスで、真っ当な商売をやっているかどうか。本物であるかどうか。
真価が問われる時代になってきたのです。
このような時代背景を受けて、リーダーシップの考え方も変化しています。目標達成やチームづくりに焦点を当てた従来のリーダーシップ論と異なり、誠実さや謙虚さなどの人間性を重視する考え方が生まれています。
カリスマ的なリーダーを真似るのではなく、自身の情熱や信念など「自分らしさ」に基づく価値観・倫理観に従って組織をまとめるというリーダーシップのスタイルです。リーダーの正直さや謙虚さなど、人間的な側面を重視する考え方です。
自分の弱点を認めてメンバーに共有し、メンバーの多様性を理解・受容する謙虚なリーダーシップのスタイル。リーダーの謙虚さがメンバーのパフォーマンスを向上させるという研究に基づいた理論です。
現代では、このようにリーダーの人間性を重要視する理論が生まれています。しかし、良く考えてみれば、リーダーに人間性を求めるのは現代に始まったことではないでしょう。昔から、そういう側面はあったはずです。
それでも、こうして理論として体系づけられて、改めてリーダーに人間性を求めるという論調が出てきているのは、リーダーシップにおける人間性の重要性が明確に重視されるようになってきた証だと言えるでしょう。
こうしたリーダーシップの概念が注目される中、人間性と成果の関係を「成果のピラミッド」を通して考えてみましょう。「成果のピラミッド」は、仕事における成果創出のしくみを階層構造で表したモデルです。
この「成果のピラミッド」は下から順に積み上がっていく構造になっています。
成果を直接生み出すのは「行動」です。たとえどんなに優秀な人であったとしても、行動しなければ成果はゼロになります。成果は行動の結果なのです。
そして、この行動の質を高めるのが「専門性」、つまり専門的な知識や技術力です。商品やサービスを生み出したり、それぞれの職種に求められる仕事を遂行するためには、専門性が求められます。専門性が高いほど、行動が生み出す成果が大きくなります。
しかし、たとえ専門性に長けていたとしても、それを効果的に発揮するためには、その土台となる「ビジネススキル」が必要です。思考力、対人能力、管理能力など、業種や職種を問わずあらゆる仕事に求められる基本的な仕事力。ビジネススキルが高いほど、専門性を効果的にはっきすることができます。
さらに、このビジネススキルが適切に発揮されるかどうかに影響を与えるのが、「行動特性」です。行動特性とは、個人の行動原理や思考パターン、性格的傾向などを表すもので、先天的に持って生まれたものや、幼少期などの生育環境によって培われます。無意識の選択や行動に影響するので、ビジネススキル以上に仕事の行動に影響を与えます。
専門性、ビジネススキル、行動特性。これらを総称したものが仕事の「能力」です。これらの能力が優れた人が、「優秀」と称される方々です。
私たちが目指すべきは、単に「優秀」であるだけではなく、人間性にも優れているリーダーです。これを私は「尊敬される人」と表現しています。能力が優れた人は大勢います。しかし、そのすべてを尊敬できるかと言われれば、必ずしもそうとは言えません。
尊敬されるためには、能力も必要。しかし、能力が優れているのは前提で、その上で人間性が優れていることが求められます。人間性をも含むすべての要素を満たす存在。それが「尊敬される人」であり、これからの時代のリーダーに求められる姿だと言えるでしょう。
ビジネスパーソンとしてさらに高いレベルを目指すのであれば、「人間性」を高めることが欠かせません。しかし、人間性は能力以上に客観的な評価が難しく、また向上させるための具体的な努力が設計しづらい、非常にあいまいな領域だと言えます。
私はリーダーシップやマネジメント、問題解決などのビジネススキルを鍛える研修を生業にしています。こうした「ビジネススキル研修」の講師業を行っている身として課題に感じるのは、「人間性」や「価値観」「美意識」などは、誰もが重要だと思ってはいるのもの、研修テーマとして取り上げにくく、予算化も困難であるということです。
人間性は能力以上に定義や測定が難しく(というか実質的に不可能に近い)、何をもって良し悪しとするかの評価も極めて困難です。なぜなら、人間性の評価にはどうしても主観が拭えないからです。
多くの研修では、参加者の方々には、研修の最後に行動計画を立てていただきます。「良い話を聞いた」「刺激になった」で終わることなく、学んだことを職場で実践いただくために、具体的な行動に落とし込むのです。
そして、多くの場合、そこで目標や計画に描かれるのは「能力」を上げるシナリオです。つまり、「優秀」であることを追求するアプローチだと言えます。もちろん、研修テーマに沿って行動計画を立てるのであれば、研修で人間性をメインテーマとして扱わない以上、行動計画が能力に焦点が当たるのはいたし方ない面があります。
しかし、上述の通り、さらに一段階上を目指すのであれば、「優秀な人」ではなく「尊敬される人」を目指すべきです。であれば、私たちは人間性を高めるこということについても、目標を設定し、具体的な行動計画を立てることが必要になります。
問題は、「人間性」はとても抽象的で、曖昧で、捉えどころのない概念であり、それゆえ人間性を高めるための「具体的な努力」を設計するのが極めて困難であるということです。
定義できないものは、管理も測定もできません。つまり、改善ができないのです。人間性を高めるためには、まず人間性の構成要素を定義し、それらを向上させるための「行動」を設計する必要があります。
私は、人間性を構成する要素を下記の9つに定めています。もちろん、これは私の仮説であり、これが唯一絶対の正解であるわけでもありません。
とはいえ、こうして具体的な内容にすることで、「人間性を高めるために何をしていけば良いのか」という課題をより明確にすることができます。目に見えないものは確かめることができない。だからこそ、仮説検証を行っていく必要があるのです。
誠実とは、私利私欲を交えず、真心をもって人や物事に向かうことを意味します。自分が誠実に仕事をしているかを振り返るには、「自分の仕事ぶりを自分の子どもに見せられるかどうか」を考えてみるのが有効です。胸を張って「パパやママはこういう仕事をしているんだよ」と子どもに見せられる仕事をしていれば、少なくとも誠実に仕事をしていると言えるでしょう。
裏で正しくないことをしていたら、自分の子どもにはとても見せられないはずです。日々の判断や行動の基準として、「自分の子どもに見せられるか」という問いを立てることは、誠実さを保つ良い習慣となり、人間性を高めることにつながります。
謙虚さを持つには「常に上には上がいる」ことを忘れないことが大切です。組織内での経験や実績を積むと、自分が偉くなったように錯覚しがちです。特に、役職などの立場が上がると、自分が力を持っているように思ってしまいます。
しかし、より広い視野で見れば、自分はまだまだ未熟であることに気づくはずです。成長したと感じる時こそ、さらに上の世界にいる人たちと比べて「自分はまだまだだ」と思い返すことが重要です。さらに上と比べることで、謙虚さが保たれ、人間性が深まります。
感謝は幸運を招く言葉です。どんどん口に出していきましょう。人に何かをしてもらった時、言ってもらった時、「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」と言う癖をつけることが有効です。些細なことでも「ありがとう」と口に出し、心から思うことが重要です。「すみません」とは言えても「ありがとう」が言えない人もいます。しかし、言われて嬉しいのは「ありがとう」です。
日頃から感謝の気持ちと言葉を大切にすることで、人間関係が深まり、周囲からの協力も得やすくなります。「ありがとう」を言える人であり続けることが、人間性を高く保つことにつながります。
品格とは、人や物から感じられる気高さや上品さ、品位を意味する言葉です。言い換えると、「他人に不快感を与えないこと」とも言えます。「下品」とは見る人・聞く人に不快感を与えることです。たとえ仕事で成果を出していたとしても、品格のない人は尊敬されません。
礼儀や言動に気を配り、品格を損ないそうになった時に「いけない」と気づいて襟を正すことができるかどうかが、人間性を表します。品格は一瞬の判断の積み重ねによって形成され、人間性の重要な構成要素となります。
知性とは、豊富な知識や会話力、判断力を持ち、相手の立場を尊重しながら発揮できる能力です。知性はその人への信頼性、安心感につながります。
知性を高める上では「常に学び続ける」姿勢が重要です。人類の長い歴史で先人が積み重ねてきた知識や知恵は膨大にあります。わずか数十年の人生でそれらをすべて学びとることは不可能であり、自分の専門分野だけでも困難を極めるでしょう。
学び続けようとする姿勢は、謙虚さの現れでもあり、向上心にもつながります。それが知性を高め、人間性の向上につながります。
「人間味がある」と言われる人は、必ずしも完璧ではなく、何かしらのクセ、つまり個性があります。どんな人にでも、強みがあれば、弱みもあるものです。何事にも完璧すぎると、かえって「人間らしさ」が感じられなくなってしまいます。凸凹があること自体が人間味を醸し出してくれます。
自分の強み、こだわり、特徴を認識し、それを磨いていく生き方や仕事のスタイルが、あなたの人間性をより魅力的にしてくれることでしょう。
自立とは「他人事ではなく自分事」として物事を捉えることです。つまり、当事者意識を持つことだと言えます。
人間は大きく「反応的な人」と「主体的な人」の2種類に分かれます。
反応的な人とは、うまくいった時は自分のおかげ、うまくいかない時は周りのせいと考える人です。物事の原因を自分の外に置いて考えます。
一方、主体的な人とは、うまくいった時は自分と周囲の人々のおかげ、うまくいかない時は自分のせいと考える人です。物事の原因を自分の内面において考えます。
自立とは主体的に生きることです。物事の原因を自分に置くということは、失敗や不運の責任を自分の身に引き受けることを意味します。非常にしんどい生き方とも言えるでしょう。
しかし、原因が自分にあるということは、自分の手で次の結果を変えられるということにもなります。
物事の原因を外に置く「反応的な人」は、外部によって自分の結果が決められてしまうため、自分の手で自分の人生を切り開くことができません。失望と無力感に苛まれた残念な生き方を自ら選ぶようなものなのです。
失敗を自分の責任と受け止めれば、次は改善できるという希望が生まれます。当事者意識を持ち、自立した大人として主体的に生きることは、人間性を大きく高めてくれます。
「健全な精神は健全な身体に宿る」と言われます。心と体は相互に補完しあう関係にあります。体を整えることで心が整い、心を整えることで体が整います。どちらも欠かすことができません。
自分の精神と肉体を健康な状態に保とうとする努力を続けていくことは、人間性を高める結果につながります。しかし、多忙でストレスの多い現代人は、自分の心と体を整える時間的、精神的な余裕を失いがちです。
食事の偏り、運動不足、睡眠不足は、人間性を歪めます。人間性を保つ上で、心身の健康状態を保つことは非常に重要です。
「将来を明るく思い描く」ことは、豊かな人間性の表れです。物事を否定的に見るか、肯定的に見るか。将来を悲観的に見るか、楽観的に見るか。この違いが、周囲の反応はもちろん、自分の人生をも大きく左右します。
将来を明るく見るか、暗く見るかで、その人の発するエネルギーがまったく違ってきます。プラスのエネルギーは人を惹きつけます。人は、暗い見通しを持つ人よりも、明るい展望を持つ人についていきたいと思うものです。
立場や年齢に関係なく、常に明るい未来を思い描き、より良いものを追求、実現しようとする姿勢が、その人の人間性を高めていくことになるでしょう。
人間性を高めるためには、具体的な努力が必要です。人の選択や行動の大部分は無意識に行われ、無意識はこれまでの行動や発言の記憶をもとに構成されます。
つまり、今までの人生の積み重ねが「いまのあなた」の人間性を形成しています。人間性をさらに高めようとするのであれば、日々の選択や行動を意図的に変えていくことが欠かせません。
私自身は、下記のように人間性を高める取り組みを実践しています。
1日10回、他者へ「ありがとう」と言う目標を、もう10年以上続けています。意識的に感謝の言葉を口にすることで、感謝を感じ、それを表明するのが無意識でできるようになっていると思います。
eラーニング動画視聴を毎日15分、インターネットの経済番組視聴を1.5倍速で毎日30〜60分、読書を毎日15分以上を日課とし、こちらも数年前からずっと続けています。これ以外に、AIに関する講義を週に90分程度視聴しています。
その日のスケジュールによってすべてこなせないこともありますが、週の中で帳尻を合わせるようにしてインプットを続けています。
自分のミッションやビジョン、事業計画、今年の個人的な目標を印刷したものを、手帳の1ページ目に入れています。毎朝、仕事に取り掛かる前にこれを確認する一日を始めるようにして、目指すべき方向を見失わないように意識づけをしています。
食事はおかわり禁止、揚げ物を避ける(週2回までにとどめる)ようにしています。
運動については、毎日歩行数を記録し、週56,000歩(週7,000歩)を目標にして意識的に歩くようにしています。筋トレも週3日程度行います。また、今年から11年ぶりに競技ダンスを再開し、月に2日程度妻と踊って運動量を確保しています。
睡眠は1日7時間以上を目標とし、自宅にいる日は子どもたちと21時には就寝するようにしています。
これらに加えて、残りの要素(誠実さ、謙虚さ、品格、個性、自立)については、1週間ごとに1つに焦点を当て、「今週はこれに気をつける」というテーマを設けています。
たとえば、「自立」をテーマにした週では、仕事だけでなく生活全般においても「自分事」として捉える意識づけをしています。道端にゴミが落ちているのを見た時に、「自分に関係ない」と思わず「自分の問題」として捉え、小さいものであれば拾って帰る(大きいものであれば端に寄せる)などしています。たかがゴミ拾いかもしれませんが、見て見ぬふりをせず、何事にも当事者意識を持つように心がけるのです。
こうした日々の小さな実践の積み重ねが、人間性を高めていきます。それぞれの生活や問題意識によって、どのような目標を立てるのでも構いませんが、重要なのは「人間性を高めるための具体的な行動をする」ことです。具体的な行動の蓄積が習慣を作り、習慣が人間性を作ります。
人間性を高めようとするのであれば、人間性が高い人がやるであろう行動を推測し、それを自分の行動習慣に取り入れることで、行動から自分を変えていくことができるのです。
仕事をする上で、優秀であることはとても重要です。優秀さが仕事の成果に結びつきます。しかし、優秀さだけでは長期的な成功や周囲からの信頼は得られません。真に尊敬される人になるためには、9つの要素からなる人間性を意識的に高めていく必要があります。
専門性やビジネススキルを磨く努力と同じように、人間性を高める具体的な努力を日々重ねていきましょう。そうすることで、単に優秀なだけでなく、本当の意味で尊敬される人になることができるでしょう。
SNSによって誰もが発信者になれる時代です。誰がどこを見ているかわかりません。私たちは清く、正しく、美しく儲けることが求められるのです。これからのビジネス社会では、人間性の有無がより一層重要になってくるでしょう。長期的な視点で自分自身の価値を高めるために、ぜひ人間性を高める取り組みを始めてみましょう。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
神戸・大阪で人材育成・社員教育をお考えの経営者、管理職、人事担当者の方々。下記よりお気軽にお問い合わせください。(全国対応・オンライン対応も可能です)