コロナ感染拡大はリーダーシップの欠如が招いた「人災」なのか

先週、東京パラリンピックが開始しました。賛否両論あるパラリンピックですが、個人的には開催すること自体には賛成です。この日のために4年(正確には5年か)かけて準備してきたパラアスリートの方々にとっては、一世一代の大舞台となるはずです。

加えて、オリンピックと比べてれば、パラ競技はこの4年に一度でなければ日の目を浴びないケースが多いことも否めません。世の中が「多様性」「ダイバーシティ」を求める風潮になっている中では、晴れ舞台を設けるのは意義のあることだと思います。ただし、小中学生の学校観戦は判断が難しいところだと思います。ワクチン接種が完了しているなら感染しても良いと思いますが、子どもはワクチンが打てなかったかと思います。何より、自分たちの学校行事がことごとく中止になっている中、パラの観戦だけ勧められるのは心情的にも納得できないでしょう。

オリンピックが開催されたことで、世の中が祝祭ムードとなって気が緩み、感染拡大に拍車をかけたとする声もありますが、実際にはそれはオリンピックのせいではなく、私たち国民の自制心のなさではないかと思います。それはそれ、これはこれです。オリンピックもパラリンピックも現実に起きていることですが、感染拡大による医療逼迫が深刻になっているのも現実に起きていることです。あくまでTVの中の世界と割り切って、粛々と感染抑制に努めていくことが必要です。

かくいう私自身、昨年は今よりも状況を楽観視していた面は否めません。勉強不足だったと思います。しかし、デルタ株の蔓延で状況はかなり深刻になったと思います。いま自分なりに可能な限りの情報を集めていますが、昨年からもっと深刻に耳を傾けていればと思うようなこともあります。私も含めて、多くの人たちに必要なメッセージが、十分に届いていなかったのではないかと思います。いまどういう状況で、いまやっていることが何につながるのか。そのビジョン、目標、シナリオ、計画を正確に知りたい。そして、それを全員で共有したいと切に願います。

「オリンピックやっているくらいなんだから、自分だっていいじゃないか」と行動が緩んでくるのは、長期に及びいつ終わるかわからない自粛生活への疲れ、不満、不信、反発の表れではないでしょうか。そして、これがさらに感染を拡大する泥沼へと向かうことになります。こういう時こそ、ビジョンを共有して、足並みを揃えることが必要なのですが、それがうまくいかないのは結局のところリーダーシップの欠如に他ならないのではないかと思います。

ビジョンを共有できないから統制がとれない

この1−2年ほど、リーダーシップについてリアルなケース事例で学ぶ機会はないと言えるほどの状況ではないでしょうか。どのような振る舞いが人の支持を集めるのか。どのような振る舞いが人の反発を招くのか。政府はもとより、自治体や民間企業の言動から、実にいろいろなことを見て、考えさせられます。

ネットのコメントを見ていると、コロナ感染拡大の悪化を「人災」と表現する人もいます。もちろん、悪いのはウィルスであって、この状況を人が引き起こしているわけではありません。しかし、人の行動、その背景にある心情が、コロナの感染抑制に少なからず影響を与えていることは否めないでしょう。

政府のやっていることを全面否定するつもりはありません。利害関係が極めて複雑で、立場や意見の対立が激しい中で、現実的な落とし所を探って調整を重ねていらっしゃることと思います。とはいえ、表面的、短絡的な解決策に終始するばかりで、抜本的な問題から目を背けている感は否めません。縦割り行政、デジタル化の遅れ、医療資源の拡充と効率的な運用。こうした問題の根本原因に対して、すでに一年以上も経つのに改善の兆しが見られないのは残念としか言いようがありません。

実際には、公表されていないだけで水面下で動いているのかもしれません。機密事項のため、確定するまで公にできないこともあることでしょう。しかし、世の中がこれだけ停滞感、閉塞感に包まれている中では、計画だけでも示して欲しいものです。ビジョンがあれば、まだ耐えられる。何が辛いって、この状況を打開するシナリオが提示されず、いつまでこの状況が続くのかがわからないことです。

思えば、昨年春の初期対応から、ゴールテープがどんどん先に伸びていくような展開が続いているように見えます。デルタ株が想定以上に手強いかったことは否めないでしょう。さらなる変異も予想される中、計画を作ることはきっと困難なことだと思います。それでも、現時点でのもので良いので、シナリオを示していただきたい。目標と計画が共有されれば、もう少し世の中がまとまる気がします。事態が悪化したら、また計画を改めて、それを示せば良いだけの話です。

どんな小さな組織であったとしても、人々の統制をとるためにはビジョンや目標の共有が欠かせません。ましてや、地域や国といったレベルでは一層、それが求められるはずです。どこに向かっているのか、いつまで続けるつもりなのかがわからなければ、付き合いきれずにサジを投げる人が出てくるのも致し方ないように思います。そういう点では、確かにいまの状況は人災とも呼べるのかもしれません。

リーダーに求められる4つの行動

マッキンゼー出身の伊賀泰代さんのベストセラー『採用基準』(ダイヤモンド社)によると、リーダーには次の4つの行動が求められます。

  1. 目標を掲げる
  2. 率先して行動する
  3. 決断をくだす
  4. 伝え広める

考えてみれば、コロナ以降の動きはこのいずれも満たしていないように思えます。人々の統制が取れなくなるのも必然かもしれません。

「1.目標を掲げる」については、上述の通りです。「医療崩壊を防ぐ」という定性的なゴールは示されているかもしれませんが、それ以外に具体的に何を目指しているのかがいまいち伝わってきませんし、そもそも「どうなったら医療崩壊なのか」「それを防ぐには、誰が、何を、どれだけ、いつまでにやる必要があるのか」が見えません。

期限や水準が定められていなければ、それは目標とは呼べず、ただのスローガンです。人流を7割抑える、7割の企業にテレワークを抑える、緊急事態宣言の期間、など数字っぽいものは入っていますが、これによって感染がどの程度抑制されるのかがまるで見えませんし、すでに実施した施策がどのような結果に終わったのかのフィードバックもありません。

国民は決してバカではありません。事実に基づき、データを用いて論理的に状況を説明すれば、理解や納得を得やすくなるはずです。プロセスと数値が示されないので、いま何がどうなっているのかがわからず、それが憶測を生んだり、気の緩みを生んだりするのです。これは行政もそうですが、マスコミの影響も大きいのではないかと思います。

「2.率先して行動する」についてが最も致命的で、発信するメッセージと発信者の行動が見事に矛盾しています。これが人々の同意や協力を得られない最大の要因ではないかと思います。民間企業にテレワークを要請しておきながら、国会も官庁も自治体もみなテレワークができていません。集会や夜間の飲食をしないように求めておきながら、官僚が飲み会を開き、政治家がパーティーを開く。

運動会や修学旅行は中止にさせておきながら、オリンピックやパラリンピックは開催される。これでは示しがつきません。オリパラの開催は国際的な責務なので、実際には中止になどできないのだとは思います。であればこそ、その背景や事情をしっかりと説明し、どうしても実施しなければならない理由を説明するべきではないかと思います。説明がなければ、懐疑的な解釈をされてしまうのは致し方ないと言えます。何事も「人に求めるなら、まず自分から」が鉄則です。

「3.決断をくだす」についても、状況を打開する大きな決断がされていないように思います。飲食店や小売店、観光業など、特定の産業に対して厳しい要請をしている様子は見られますが、いずれも対処療法に過ぎないのではないでしょうか。上述の通り、根本的に解決しなければならない大きな課題は、縦割り行政の解消、デジタル化の推進、医療リソースの拡充だと考えます。あくまで素人考えなので、具体的な対策を公表するのは憚られて消しましたが、柏市の赤ちゃんのような事例が起きないよう、文字通り「緊急事態」の対応を望みます。

そして「4.伝え広める」です。首相の原稿読みが揶揄されていますし、それが求心力の大きな低下につながっているのは確かだとは思います。相手の目を見て、自分の言葉で、本心から発するメッセージを国民は望んでいます。私たちはビジョンを見たいのです。シナリオを知りたいのです。それだけでも、統制は今以上にはとれるようになると思います。

とはいえ、決して首相にだけ問題があるわけでもありません。情報が錯綜してわかりにくい中、必要な情報を整理して客観的に伝える機能をマスコミに求めたいところですが、現実には揚げ足取りや恣意的な編集で、むしろ情報が歪んで伝わっています。それこそ、国民はバカだと思われているのか(もしくはバカにしたいのか)、事実やデータに基づかない感覚的、印象的な話ばかりが飛び交います。羽目を外す人をますます増やしているようにしか思えません。

すべての大人がリーダーシップを発揮すべき

決して「特定の誰か」のせいではないのかもしれない。しかし、国民に大きな影響を及ぼすはずの様々な機能において、意思決定からコミュニケーションに至るまで、いたるところでリーダーシップが欠如しているような言動が見受けられます。残念ながらこれが現実です。

しかし、そうこうしているうちに、すでに1年半以上が経過。ありとあらゆるものに自粛が求められている中、最も気の毒なのは子どもたちや学生です。小中学生や高校生には、運動会もない。文化祭もない。修学旅行もない。大学もオンライン授業ばかりで、キャンパスライフなど夢のまた夢。入学から2年経っても一度もクラスメートと顔を合わせたことがないという人もいます。

子どもの一年は、大人の一年と明らかに違います。この時代にしか経験できないこと、この時代でしか作れない思い出がいっぱいあります。尾身会長もおっしゃっていましたが、若者が感染を拡大させているなんてとんでもない。少なくとも、私が直接知っている範囲ではありますが、学生や新入社員などの若い方々は、みな悲壮感にさいなまれながらも我慢強く行動を抑制しています。早く解放してあげたい。大人はいつでも遊べるし、いつでも仕事ができます。自分たちが楽になりたいという以上に、我が子も含む、未来を築く若い人たちのために、早くこの状況を打開しなければなりません。

感染を広げているのは、一部の残念な人たちです。そして、年齢の問題ではなく、すべての世代で一定数そういう人たちがいます。ワクチンを打ったから安心しているのか、マスクしないで電車に乗ったり、喫茶店で大声で話をしている中高年も見かけます。結局、感染を広げているのはこういう人たちなのです。

テレワークの要請にもできる限り応じるべきです。たとえ行政がテレワークをしていなくても、だからといってやらない理由にはなりません。一人でも多くの人がテレワークにした方が、感染が抑制されるには違いないのです。工場や店舗など物理的な施設や設備がないと仕事ができないケースは別ですが、オフィスでやる仕事はほぼテレワークでできるはずです。「ウチの会社は特殊だから」と言っている人たちは、現状を維持したいだけの怠慢に過ぎません。毎日をテレワークにはできないかもしれない。私もどうしても外出しなければならない時もあります。それでも、週に2日でも、3日でも、外出しない日をみなが作るだけで、状況は大きく変わるはずです。

もう政府批判も著名人批判も聞き飽きました。感染が拡大するか、収束するかは一人ひとりの意識と行動の結果です。各人が「何が正しいのか」「何をすべきなのか」を理解し、節度と常識のある行動を自らの意思で行っていくこと。すなわち、自分自身をリードすることが大切なのではないかと思います。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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