コミュニケーション
2025.6.14
目次
今回は、現場のマネージャーの方々から特によく聞かれる悩みのひとつ、「ちゃんと説明したのになぜか部下が動かない問題」についてお話していきます。
「これだけ丁寧に伝えたのに、なぜ部下は動いてくれないのか」「どこまで細かく説明すれば動いてくれるのか」―そんな悩みを抱えたことがある方は少なくないはずです。ですが、この問題の本質は伝え方にあるのではなく、もっと根本的な部分に潜んでいるかもしれません。
実際、マネージャーの方々は日々、部下へ仕事の内容や手順をしっかり説明し、さらにその仕事の背景や目的まで伝えたうえで、「分かりました」と返事をもらっていることでしょう。「これだけ伝えたんだから、当然すぐに仕事に取りかかってくれるだろう」と思うものです。ところが現実には、なぜか部下がすぐに動き出さず、しびれを切らして催促してようやく動き出す…そんな状況に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
納期ギリギリになってなんとか間に合わせる、けれどまた次も同じようにヒヤヒヤする羽目になる―こうした現場のあるあるは、決して珍しいことではありません。多くのマネージャーが「自分の言い方や説明が悪かったのでは」と反省しがちですが、実はもっと根本的な「関係性」の問題が潜んでいる可能性が高いのです。
結論から言えば、部下が動かないのは「伝え方」が悪いからではなく、関係性の問題であることが多いのです。人は「この人の話なら聞いてみよう」「この人の期待には応えたい」と思える相手からの言葉にこそ素直に反応します。つまり、「何を言うか」「どう言うか」も大切ですが、実は「誰が言うか」の方がより大きな影響力を持っているのです。
信頼関係がしっかり築けていない、あるいは以前よりも希薄になっている―そのような状態では、いくら論理的に分かりやすく説明しても、なかなか相手の心には響きません。「この人の言うことだからやってみよう」「この人のために頑張ろう」と思われなければ、どれだけ細かく丁寧に伝えても、動き出しは鈍くなってしまうのです。
ですから、「伝え方」ももちろん重要ではありますが、まずは伝わるための関係性を築いておくことが大前提となります。この点を見落としてしまうと、どんなに伝え方を工夫しても、根本的な課題解決にはつながりません。
ここで、より分かりやすいように具体的な例を挙げてみましょう。たとえば、AさんとBさんという二人のマネージャーが、それぞれ部下に同じ仕事を頼むとします。Aマネージャーは「これ、金曜日までにまとめておいて。よろしく」とだけ伝えました。一方、Bマネージャーは「これ、次の会議で使うから金曜日までにまとめておいてほしいんだけど、どうやって進める?」と相手に尋ねます。
Bマネージャーは、ただ指示するだけでなく「あなたはどう考える?」と部下の考えも確認するのです。
Aマネージャーの伝え方は端的で分かりやすいように見えるかもしれません。しかし、相手の意向や考えをまったく無視している印象を与えかねません。
逆に、Bマネージャーのように部下の意向を尋ねることで、「自分のことを気にかけてくれている」「自分もチームの一員として尊重されている」と感じてもらいやすくなります。
このようなコミュニケーションを日ごろから積み重ねていると、部下の「自分は大事にされている」という自尊心が高まり、「この人の頼みだから頑張ろう」といったモチベーションにつながるのです。結果として、同じ内容の仕事でも、受け取る側の行動が大きく変わってきます。
逆に、信頼関係を損なうような行動を取ってしまうと、どれだけうまく伝えたつもりでも、部下は動かなくなってしまいます。たとえば、部下が報告してきた内容を最後まで聞かずに遮ってしまったり、「いいからそれは」と途中で話を打ち切ってしまったりするのはよくありません。たとえ不要な報告だと感じても、まずは一度最後まで聞き、なぜそれを伝えようと思ったのかを確認することが大切です。
また、「前にも言ったよね」「何度も同じことを言わせないで」など、つい感情的になってしまうような言葉も注意が必要です。これが続くと、「どうせ自分が何を言っても聞いてもらえない」と感じてしまい、部下との距離がどんどん遠くなっていきます。
さらに、仕事の成果には無関心なのにミスだけは厳しく指摘する―いわゆるネガティブなフィードバックしか与えない上司も、信頼関係を崩しやすい典型例です。こうした積み重ねが、部下のやる気や自発的な行動力を削ぎ、ますます「指示待ち」になってしまう大きな要因となっていきます。
それでは、部下との信頼関係を築き直し、「言ったことがきちんと伝わり、部下が自発的に動く」職場をつくるために、マネージャーとしてどんなことに気をつければよいのでしょうか。ここでは、現場で実践できる三つの重要なポイントをご紹介します。
まず一つ目は、「相手の意図や視点を聞くこと」です。たとえば仕事を指示するときでも、一方的に自分の考えを押し付けるのではなく、「あなたはどう思う?」と必ず問いかけてみてください。「これについて、どんなやり方をイメージしていますか?」「今回の案件、進め方に工夫したいことはありますか?」 こうした問いかけは、部下が「自分も尊重されている」と感じるきっかけになります。
「そんな時間はない」「今は急いでいるから」と思うかもしれませんが、たった一言でも相手の意見を聞く時間を設けることで、信頼関係は大きく変わります。「自分の考えを聞いてくれる上司」だと認識されることが、長期的なコミュニケーションの基盤になるのです。
二つ目は、「プロセスにもフィードバックをすること」です。私たちはつい、結果が出てから評価やフィードバックを伝えがちです。しかし、部下のモチベーションや行動力を育てるうえで大切なのは、「途中経過」にも目を向けることです。
たとえば、「進捗どう?」「順調にいってる?」といった声かけをすることで、「見てくれているんだな」「気にかけてもらえているんだな」と部下に安心感を与えることができます。これは小さなことのように見えて、実際には大きな違いを生みます。人は、自分が期待されている、注目されていると感じたときに、より積極的に動くようになるものです。
「プロセスをきちんと見てくれている」という感覚が、部下にとっての安心材料となり、信頼関係の強化につながります。結果だけでなく、途中の努力や工夫、苦労にもぜひ目を向けて声をかけてあげてください。
三つ目は、「小さなことにも“ありがとう”と伝えること」です。上司と部下という関係であっても、お互いに一人の社会人として対等に接することが大切です。つい「それぐらい当然だ」「やって当たり前だ」と思いがちですが、どんな小さな仕事や気配りにも、「報告してくれてありがとう」「準備してくれて助かったよ」といった言葉を惜しまず使うようにしましょう。
感謝の言葉は、お金も時間もかからず、相手に喜ばれるコミュニケーションの基本です。「自分のことをちゃんと見ていてくれる」「自分の頑張りを認めてくれる」と部下が実感できると、その信頼感は自然と積み重なり、「この人のために頑張ろう」と感じるようになります。
部下が動かない背景には、決して能力ややる気だけでなく、「どうせ言っても無駄だ」「どうせ聞いてもらえない」という心理的な壁が生まれていることが少なくありません。その壁は、日常の小さなコミュニケーションの積み重ねによって、高くもなれば低くもなります。
ここで意識したいのは、「伝える」ことと「伝わる」ことは違うという点です。自分では伝えたつもりでも、相手がその意図を受け止めて初めて「伝わる」のです。そのためには、伝える側の熱意や論理だけでなく、相手との関係性、信頼感、そして日常の対話が欠かせません。
例えば、「何度言っても伝わらない」と感じた時こそ、「自分は相手の話をしっかり聞けているだろうか」「最近、部下の努力やプロセスを褒めたり、感謝したりしているだろうか」と自問してみてください。部下が自分の意見を持つようになる、また上司の言葉に素直に反応するようになるのは、日常の積み重ねがあってこそ生まれるものです。
「伝わる」ためには、上司自身が部下に対して誠実であることが何よりも大切です。部下の言葉をさえぎらず最後まで聞く。小さな努力にも「ありがとう」と声をかける。部下の意見や感じ方に耳を傾け、失敗した時も頭ごなしに叱るのではなく、プロセスや気持ちを一度受け止めてからアドバイスする。
こうした姿勢は決して難しいことではありませんが、忙しい毎日の中でつい忘れてしまいがちです。「上司だから」「部下だから」と上下で線を引くのではなく、お互いが同じ職場で働く仲間、目標を共有するチームであるという意識を大切にしてください。
信頼関係は一日で生まれるものではありません。部下の話に耳を傾け、プロセスにもフィードバックをし、成果や努力には感謝の言葉をかける。こうした小さな積み重ねこそが、強いチームを育て、部下の自立性や行動力を引き出します。
指示待ち部下が動かない―それは「伝え方の問題」ではなく「関係性の問題」なのだという視点を、ぜひ職場全体で共有してください。上司が「伝える」ことばかりに意識を向けるのではなく、「どうしたら伝わるか」「どうしたら自発的に動いてもらえるか」を考えることで、部下も必ず変わります。
「ちゃんと説明したのに動かない部下」に悩んでいる方こそ、日々のコミュニケーションを見直し、ぜひ信頼関係を深めていってください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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