【実体験】これがAIに仕事を奪われる営業員だ

6月末に転居することが決まり、引越の準備を進めています。先日、引越会社から紹介されたとのことで、インターネット販売代理店から連絡を受け、数回のやりとりをしました。まあ、その仕事の仕方がひどいこと。やりとりを通じて、怒りや呆れとは別の感情が沸いてきました。よく言われる「AIに仕事を奪われる人」というのは、こういう仕事の仕方を指すのだろうなという納得です。

顧客視点が微塵も感じられない営業

その代理店さんとは、まず2回ほど電話でのやりとりがありました。TVのアンテナはついているか。携帯電話のキャリアはどこか。固定電話は必要かどうかなど。これは基本情報なので、聞くのは当然だとは思います。

問題はその後。「自社が一番安い」「他社の方が高い」などやたらと価格メリットを訴えてくる。もちろん価格は重要な要素の一つではあるけども、決め手は必ずしも価格だけとは限りません。転居後は在宅ワークがいま以上に増えるでしょうし、オンライン通話もミーティングだけではなく、セミナーや研修を自宅から配信するケースもあり得ます。回線の容量や安定性などは、価格以上に重要な要素です。しかし、品質に関する説明は一切なし。こちらがどう使うかなど、さして関心がないかのよう。100Mbpsなのか、1Gbpsなのかによって値段は大きく変わるだろうに、中身の説明がまるでない。

また価格を説明するにしても「合計で○○円になる」ということを告げるのみ。どういう構成のプランなのか。オプションがあるのかどうか。その価格に関する条件は何なのか。いろいろ確認したいが、話が噛み合わず思うようにコミュニケーションが取れない。きっと「契約後○ヶ月まで」とか「別途○○料金が必要」とか、安価であるならそのための付帯条件もあるはず。そこをしっかり確認し、理解しないとGOサインが出せるはずもない。電話の説明だけで契約するかどうかを決められるはずもなく、資料を請求しました。

そして資料が送られてきて、中を開けてまた驚きました。あまりにもひどい。送付状もなく、担当者の記載も名刺もない。有り物の資料をインクジェットで印刷したものをただ突っ込んでいるだけ。これまで電話のやりとりをした甲斐はまるでなく、何の提案も用意されていない。少なくとも、担当者が自ら書いたり、入力したりした形跡は一切見られません。要望は伝えているのだから、いくつかのオプションを提示した上で、それぞれの見積くらい載せて欲しいところです。

提案書を用意しないにしても、せめて資料にマーキングやコメントくらいはして欲しい。どこに着目すれば良いのかまるでわからない。挙句の果てには、どう見ても同じにしか見えない、微妙に価格だけが異なる複数の資料があって混乱させられる始末。つまり、ただ単に取り扱っている商材を紹介しているだけで、こちらに対して何の提案にもなっていないのです。さらには、電話口では何の説明もなかった設置工事の費用などがちゃっかり載っている始末。顧客に対する誠意や、営業行為に対する熱意が微塵も感じられない。こんな適当な営業で契約が取れるとでも思っているのだろうか。

決してそうは聞こえなかったが、新人さんである可能性も否めません。だとすればなおさら、資料の構成や提案の仕方について上席が指導するべきです。このまま送られてきたということは、指導や管理の面で上席者にすら期待できないことを露呈しています。正直なところ、商材自体が良いのか悪いのかの判断は、他社プランと比べてみないとわかりませんが、一つ確実に言えることはこんな適当な仕事をする人と契約をしたくないということです。

「申し訳ないが、どんなに商材が良かったとしても、おたくとは契約できない」と電話で告げ、その会社とのやりとりは終了しました。

ビジネスの本質は問題解決

ビジネスの本質は、顧客の問題を解決することです。娯楽業など、楽しい感情や時間の過ごし方を提供するビジネスもありますが、それも広い意味では、退屈な感情や人とのつながり感を満たすという問題解決だと言えます。そして、問題を抱えているのは顧客であり、その問題が解決された結果を受け取るのも顧客です。したがって、問題の存在と所在、その解決を認識するのは顧客自身であり、ビジネスの提供者はその一連の認識を支援することが仕事の本質的な目的となります。

何を問題だと認識するのか。どうなったらそれが解決したと思えるのか。それをクリアにするためには、顧客の状況や心情を丁寧にヒアリングし、ニーズを明確にし、解決のイメージとその過程を共有する必要があります。顧客と同じ側に立ち、同じものを見る。これがビジネスを進める上での前提となります。

そして、問題解決を具体的に行う手段として商品やサービスが登場します。上述の通り、価格は商品やサービスを選定する決め手の一つにはなりますが、価格がすべてではありません。品質や使い勝手、納品スピード、アフターケアなど、商品やサービスの価値を決める要因はいくつもあり、これらが複合的に組み合わさって商材の価値を決めています。

価格が安いことだけを全面に押し出すのは、価格以外には商品やサービスの魅力が何もないことを示すことになります。たとえ日用品や消耗品であったとしても、価格以外の要素も購入の決め手になります。ましてや、無形の商材や高級品などは、価格以外の要素の方がはるかに大事です。

重要なことは、顧客がその商材の「価値」を認識できるかどうかです。価値とは「有用性の認識」です。つまり、顧客が「役に立つ」と感じるかどうかが価値の本質です。そして、認識である以上、それは相手が決めることです。営業員の仕事は、顧客との直接的な接点をもって、相手に有用性の認識を作り出すことです。そのためには、顧客の話に耳を傾け、状況を把握し、課題を共有し、解決策をともに考える姿勢が求められます。

どなたの言葉だったか忘れてしまいましたが、「営業の仕事は売ることではなく、相手が良い買い物をする手伝いをすることだ」という言葉があります。私はこれをとても気に入っていて、セミナーや研修の場でもたびたび引用しています。ビジネスの本質をシンプルに突いている表現だと思います。

AI(人工知能)に奪われる仕事=人間味のない仕事

マイケル・オズボーンが「コンピューターの進化によって、人間の職業が消える」という説を唱えてはや7年以上が経ちました。職業そのものが消えたかどうかはともかく、世の中は確実にその道を進んでいるという実感があります。

単純に商材を一方的に紹介するような営業行為は、すでにテクノロジーが代替するようになっています。ネット上の広告表示がユーザーによって最適化され、顧客の興味や関心に合いそうな提案がインターネット上でほぼ自動的に行われるようになっています。広告をクリックするとランディングページに遷移し、そこで商材の機能と効用、お客様の声、オファーに関する諸条件が提示され、購入までのプロセスがすべて完結するようになっています。

先日、iOSのアップデートによって、アプリによるトラッキングにユーザーの許可が必要になったことについてFacebookが反発の意向を示しました。それがまさに、トラッキングによるユーザーごとの広告最適化が一定の成果を得ていたことを物語っています。単純に商材を紹介し、条件をヒアリングして、プラント価格を提示するような営業行為は、テクノロジーで賄えるようになっているのです。

しかし、ビジネスの本質が単なる商材の販売ではなく、顧客の問題を解決することだと捉えた場合、テクノロジーでできることはまだ非常に限られています。今後の技術進化によって、さらに再現できることは広がるでしょうが、AI(人工知能)が計算機である以上はどうしても破れない壁は存在します。それが、人の感情を理解すること、共感を示すことです。

オズボーンはコンピュータに代替されにくい職業として、

  • ヘルスケアやラーニング、心理学など、人との深いコミュニケーションに関わる仕事
  • デザインやエンジニアリング、経営などの「創造」や「意思決定」に関する仕事

の2つを挙げています。

人との深いコミュニケーションには、感情の理解と共感が求められます。これはコンピューターが再現できない領域として、「人がやること」としての希少性をさらに高めていくことなるでしょう。人は人とつながりたい欲求を持っています。たとえ、表面的にはSNSやテキストチャットなどのバーチャルな対話だったとしても、その背後に人間がいることの理解しているからこそ、社会的欲求が満たせるのです。

また、創造的な仕事には言語や数学では再現できない直感や感性が求められますし、その起点となるのはやはり人の感情です。そして、最適な意思決定をするためには、物事を大局的に、複合的に考えることが必要です。これもまたコンピューターには難しい領域になります。考慮すべきすべての視点をプログラムにすることは途方もない作業になりますし、そもそも「すべての視点」を言語化することが極めて困難です。そして、計算機は「常識」を理解できません。深い思考を巡らせることは、やはり「人がやること」としての希少性をさらに高めていくことなるでしょう。

これから先、ビジネスの重要なスキルとして求められてくるのは間違いなく「人間性」です。機械には決して出せない、人としての魅力が仕事の成否を分けることになります。テクノロジーが代替できるのは職業そのものではなく、作業の一部です。すべての職業に、人間性を発揮する場面があるはずです。

人生100年時代。これから先まだ何十年も働くにあたって、テクノロジーがどのように進化するかを問わず、人間性は磨き続けておく必要があるし、それを日々の仕事や生活の中で実践していくことが、現実的で有効な人生戦略になると私は考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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