基本から応用へ〜管理職研修と新入社員研修を終えて〜

先週、2日連続でコミュニケーション研修の講師を担当いたしました。1日目はある企業での管理職向けのコミュニケーション研修。翌日は別の企業で新入社員向けのコミュニケーション研修です。前者は40〜50代の方、後者は20代前半の方が対象です。

対象者はまるで異なる層ですが、お伝えしていることはほぼ同じ内容です。教材の中身も7割くらい同じです。もちろん、解説する際の例示はまるで違います。管理職向けには部下との面談、指導・育成場面における会話例。新入社員向けには、指示・命令を受け、報告・連絡・相談する場面での会話例を用います。

理論や技術をどのように使うのか。応用の仕方は大きく異なりますが、その本質や基本はまったく同じ。いかに基本が重要で、奥深く、習得が容易でないかを象徴していると言えます。

コミュニケーションの基本

コミュニケーションとは「2人以上の人間が、お互いの情報(思考・感情・意思)を言語または非言語のメッセージに乗せて、相互に伝達・交流させる行為」のことです。情報の発信(伝える)、受信(きく)、処理(理解する)の3つのプロセスを、相互に同時進行で行うことで、相互の伝達・交流が可能となります。

コミュニケーションを良好にするためには、まず伝える技術ときく技術が必要になります。そのため、研修では論理的説得や情緒的説得、傾聴や質問などの手法などを説明した上で、演習を通じて訓練していきます。

https://youtu.be/x7aIVZkrsnE

ただし、伝える技術ときく技術が高まるだけで、良好なコミュニケーションができるとは限りません。最も難しいのは情報処理(相手の理解)です。どれだけ正確にわかりやすく伝えても、あるいは丁寧に注意を傾けて相手の話を聴いても、お互いが言わんとしていることの認識が食い違う場合があります。人それぞれ、受け取り方がことなるためです。情報処理の前提となる、物事の見方、捉え方、考え方、前提知識、価値観などが人それぞれ異なるためです。

「なんでそう受け取るの」「そんなつもりで言ったんじゃないのに」という誤解や認識のズレはつきものです。自分と相手は違う人間であり、物事の捉え方や価値基準が違う。それは頭ではわかっていても、相手を理解しようとするのは難しい。

一言で他人と言っても、他人は何十人、何百人、何千人といます。一人ひとりについて「この人はこういう人」「あの人はああいう人」といった特徴を把握し、それぞれに応じてコミュニケーションスタイルを変えていくのは決して容易ではありません。そのため、まずは自分に対する理解を深め、自分の特徴(物事の考え方や捉え方、言い方などのクセ)を把握した上で、自分を基準として相手との違いを理解した上で、必要に応じてコミュニケーションの取り方を微調整していく。研修では、診断ツールなどを使いながらまず自己分析を行い、自分が陥りがちなパターンについて傾向を捉えていきます。

ここまでがコミュニケーションの基本であり、汎用的で前提となる知識です。そして、これ以上のことは「応用」に相当します。瑣末なテクニックは無数にあります。挙げればキリがありませんし、それぞれの関心度や課題認識に応じて、必要なことを自分で学んでいただければ良い話です。基本的な原則と手法をご紹介し、後は演習と実践を重ねて学んだことを技術として消化いただくのみです。

管理職であろうと新入社員であろうと、お伝えするべき基本は変わりません。伝える、聴く、理解する。ただこれだけです。管理職と新入社員に同じ話をするのか?と思われるかもしれませんが、基本は誰にとっても基本だから基本なのです。必然的に、伝える内容も教材の中身も似たり寄ったりになります。そして、この基本を完璧に実践できている人などそうそういるものではありません。それぞれのレベル感に応じて、基本行為を繰り返し練習して、習熟度を上げていくだけ。それをどのように仕事の場面に活用するかは、すべて「応用」の話であり、それはご自身でやっていただくほかないのです。

「わかる」と「できる」の隔たりを埋めるのは累積経験量

「管理職向けの研修で基本をやるのか」と思われるかもしれませんが、むしろ基本こそやる必要があるし、基本だからやるのです。おそらく、単純に知識という面では、管理職の方々はもちろん、新入社員の方々も「どこかで聞いたような話」がしばしばあったと思います。もちろん、講座として楽しく受講いただけるように「職場あるある」のような会話例を交えて、具体的にご理解いただくよう努めていますが、伝えていることは基本中の基本ばかりです。

しかし、どこかで聞いた話だから、知っているしもう十分ということはありません。それは所詮「知っている」「わかっている」というだけであり、必ずしも「できる」わけではないからです。

人が成長する段階を表したモデルとして有名なものに「成長4段階」という説があります。何かしらの技能を習得して「できる」段階に至るまでは、下記の4つのステップを段階的に上がっていくとする考え方です。

  1. 無意識的無能(知らないし、できない)
  2. 意識的無能(知っていて、やろうと思っているが、できない)
  3. 意識的有能(知っていて、やろうと思えば、できる)
  4. 無意識的有能(やろうとしなくても、自然にできる)

今回のケースで言えば、もし仮にコミュニケーションに関する知識がまったくゼロという方がいれば、それは無意識的無能状態(1)からスタートすることになります。しかし、小さなこどもならまだしも、社会人にもなっている人がコミュニケーションの取り方にとって知識がゼロということは考えにくいです。できているかどうかは別として、何かしらの知識がある状態にあると考える方が自然です。したがって、意識的無能(2)もしくは意識的有能(3)状態にいる方に対して、レクチャーをするという想定でこちらも臨んでいます。

コミュニケーションに限らず、論理的思考力であれ、情報収集であれ、問題解決であれ、業務改善や時間管理であれ、いずれのスキルも最終的に目指すべきレベルは無意識的有能状態(4)です。いちいち考えながら、気をつけながらでなければできないというのでは、多忙を極める現代ビジネス環境においては、生産性が低下してしまいます。習慣としてすっかり定着し、もはや当たり前のように確実にできるのが最終段階です。ここまで辿り着いてようやく「できる」なのです。

伝える・聴く・理解するをこのレベルでできる方などそうそういません。一時的、部分的にはあるかもしれませんが、いついかなる時も論理的・情緒的にパーフェクトな伝達ができて、他人の話をパーフェクトに傾聴し、常に的確な質問を投げかけて、相手の考えや意志を間違いなく把握できる人などいるはずもありません。「知ってはいるが、思うようにできない」「ものすごく気をつけてやれば、なんとかできる」これが普通です。基本事項をお伝えしただけで「こんなのできるよ」と安易に思ってしまう方は、よほど水準が低いのだとも言えるでしょう。

理論や技術はとてもシンプルです。聞けば簡単にできそうに思えることばかりです。しかし、無意識的有能状態で「常につかいこなす」域に達するためには、膨大な訓練、すなわち経験量が必要です。何度も繰り返し練習し、累積経験量が膨大に積み上がった時にはじめて「できる」と言えるようになります。そして、もし仮に無意識的有能状態に達したとしても、それをずっと維持し続けるのは容易ではありません。仕事の習熟度が上がれば上がるほど、過去の成功法則、業界や会社の常識、固定観念、思い込みなども根強く形成されることになり、他者理解が一層難しくなるからです。

だからこそ、折に触れて繰り返し、基本に立ち返る機会を設けることが必要です。自分が「できている」と認識した時点で、成長はそこでストップします。基本がシンプルであればあるほど、経験を重ねていくたびに、それがいかに難しいかを思い知らされる。スポーツや芸事でも基本が大切とされますが、ビジネスでも同じです。考える、書く、話す、聴く、管理する。これが基本であり、奥深く、常に磨きつづける必要があるのです。

基本を笑うものは、基本のできなさに泣くことになります。基本を大切にしている人は、地道に基本行為を繰り返し、応用が効くようになっていきます。自分の専門的な知識や技能を活用して仕事の成果をあげようとするならば、その土台となる基本能力を日々磨き上げていくことが重要ではないかと私は考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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