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2022.6.6
先月、ある企業様で「自律型人材研修」を担当させていただきました。自律型人材とは、主体性・当事者意識・自律性を発揮して、自ら考えて行動するビジネスパーソンのことです。研修ではそのマインドを身につけるため、外部環境の動向把握、自己分析と自分軸の設定、自社の理解などを行います。
後日、研修を受講した方々からのアンケートが届き、コメントを拝見いたしました。
など、ありがたいお言葉をいただき嬉しい気持ちになりましたが、一方で多くの方々のコメントに「ある言葉」が書かれていたのが気になりました。
お褒めの言葉ではあったものの、ほとんどの方々のコメントに、
という枕詞がついていました。
こちらの企業様は建設業で、社員教育にかなり力を入れていらっしゃいます。
日頃から実務に即した研修をなされているからこそ、今回の研修が一線を画したものに映ったのかもしれませんが、皆が一様にこのように記載するということは、
仕事に必要な能力=実務能力
という認識をなされていることの現れだと読み取りました。
もちろん、仕事をする上で実務能力は重要です。仕事の目的は成果を上げることであり、成果を上げるためには具体的な行動(実務・作業)をする必要があります。実務能力がなくては、期待に沿った成果をあげることはできません。
しかし、実務能力だけ磨けば良いのかというと、それだけでは必ずしも不十分です。仕事をする上で求められる能力には、
の2種類があるからです。
後者は、業種や職種、組織をまたいでも活用することができることから、ポータブル(=持ち運び可能)スキルと呼ばれます。具体的には、思考力、対人関係能力、管理能力などがこれに該当します。そして、ポータブルスキルは専門スキルの土台になるものです。
たとえ、専門的な知識や技術を十分に保有していたとしても、根本的な物の考え方や論理構築の仕方が誤っていれば、知識や技術をうまく活用するのは困難です。場合によっては、期待に反する結果を招くこともあります。
コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力が低ければ、自分の知識や技術をうまく伝えることができず、チームワークが機能しなくなります。管理能力が低ければ、予算内にプロジェクトを納めたり、期限までに納品することができません。専門スキルは、ポータブルスキルが土台になって本領が発揮されるものなのです。
ところが、専門スキルを習得させることには教育投資が積極的な企業様であっても、ポータブルスキルを上げるための投資には消極的な場合も数多く見受けられます。
製造業であれば組立・加工の技能、建設業であれば工事に必要な資格取得や施工管理技術、IT業であればプログラミングなどが専門スキルに相当します。当然、これらの技能がなければそもそも仕事にならないので、いち早く戦力化するために予算をかけて教育訓練を施すことでしょう。
しかし、これらは「なくては仕事にならない」技能なので、最終的には必ず何かしらの形で習得することになります。OJTで先輩から指導されることもあるでしょうし、自分が必要と感じれば業務時間外に自己学習をすることもあるでしょう。必要に迫られているものは、必ず最後にどこかでやるようになるのです。
一方、ポータブルスキルは後回しにされがちです。放置されると言った方が正確かもしれません。業務に直結しないスキルなので、会社が投資する必要はないと考えがちです。やるなら自分でやるべきだと考える方もいらっしゃるかもしれません。
実際、私も会社員時代にポータブルスキルを磨く研修を提供してもらった経験はほとんどありません。ロジカルシンキングや問題解決、PDCA、フレームワークなどのビジネス用語もコンサルタントに転身してからはじめて知ったくらいです(私の意識レベルが低すぎたのかもしれませんが、、、)
社会人として何年も仕事をしていれば「必要最低限」の思考力や対人能力、管理能力は身に付きます。必ずしも業務にこれといった実害が出るわけでもなく、それで「やれてしまっている」ので、ポータブルスキルを意識的に向上させようとする動機は自発的には生じにくいものです。自らポータブルスキルを上げようとする人は、よほど意識の高い方か、よほどの物好きだと言えるかもしれません。場合によっては、一生、意識的に鍛えることなく終わることもありえます。
しかし、前述の通り、ポータブルスキルは専門スキルの土台になるものです。ビジネスパーソンとしての基本能力となる「考える力」「伝える力」「聞く力」「書く力」「管理する力」などを高めれば高めるほど、専門スキルを使って生み出す価値の量や質を高めていくことができます。
誤解を恐れずに言えば、ポータブルスキルを鍛えないから、生産性が上がらないし、イノベーションが起きないし、指示待ち人間が増えるのです。これが日本経済が低迷し続けている原因の一つだと私は考えています。
もし、職場の生産性を高めたければ、価値創造のイノベーションを起こしたければ、従業員に主体的に仕事をしてもらいたければ、企業はポータブルスキルにも教育予算をかけて、従業員のビジネス基本能力を上げていくことが求められます。
必要に迫られることだけをやるのではなく、必要に迫られていないことにもリソースを注ぐことです。ポータブルスキルを引き上げることで、新しいものを生み出したり、新しいことに取り組んだりするアイデアや活力を生み出すことができます。従業員が自発的にやりそうにないことだからこそ、企業がトップダウンで仕掛けていく必要があるのです。
環境変化の激しい時代と呼ばれ、過去の延長線上では事業の継続が困難な状況にあります。業種・業態、規模の大小を問わず、ビジネスモデル、業務プロセス、商品やサービスのイノベーションを起こしていくことが求められています。
こうした変革は、実務能力を磨いているだけではなかなか起きません。むしろ、今までのことを、今までと同じようにやり続けることによって、固定観念や思い込み、現状の行動パターンへの固執を招き、事業をますます苦境に立たせていくことすら考えられます。
実務スキルと異なり、ポータブルスキルへの教育投資には必ずしも即効性は期待できないかもしれません。投資対効果を優先に考えるなら、敬遠しがちな選択になることでしょう。しかし、物事の考え方や基本的なコミュニケーション能力が一朝一夕で変わるわけがありません。何度も繰り返し刺激を与えて地味な変化を積み上げていく長期戦が求められます。だからこそ、一過性で終えることなく、コンスタントにコツコツと続けていく必要があります。
オペレーションが自動化・効率化されるデジタル時代において、事業が生み出す価値の源泉となるのは人間の意識や思考です。ポータブルスキルへの長期投資を行う企業が、厳しい環境を生き抜き、長く繁栄していくことになるだろうと私は信じています。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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