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2022.11.28

若者のアイデアをおじさんの力で実現させよ

先週末は、ある建設会社で、若手事務職の方を対象とした業務効率化研修を担当してきました。研修のラストは自分の業務や職場の改善や効率化を検討するグループワーク。毎度ながら、若い世代の方々の問題意識やアイデアは本質的だなと感心します。もちろん中には勉強不足による誤解などもありますが、基本的に業務課題に対して正直で素直です。問題の原因にフラットな目で着眼し、率直な解決策を考えます。

経済低迷が長引き、固定観念や慣例から脱却せよと叫ばれることがしばしばですが、そのためのアイデアは若い世代や中途入社の方がすでに持っていることも少なくはありません。しかし、意思決定層となる幹部クラスにとっては、それらは時に突飛で非現実的なものとして映ります。過去の経験や慣例、業界や自社の常識に照らし合わせると容易に受け入れ難いものであり、真摯に取り合わず、アイデアが泡沫に消えてしまうのです。

経験豊富なベテランに求められる仕事は、決して若手や中途入社の突飛なアイデアに対して、ダメな理由を突きつけることではありません。どうやればそれらを実現できるのかをともに考え、実際に実現することなのです。

厳しい経済環境の中で事業を発展させ、成長させるためには、従来のやり方を想像的に破壊するイノベーションが欠かせません。そして、イノベーションを起こすための一つの方法が、若者のアイデアを経験豊富なおじさんの力で実現い導くことなのです。

固定観念から逃れるためには若者の声を聞け

環境変化の激しい現代においては、過去の成功体験に基づいた従来のやり方をただ続けているだけでは、事業は低迷の一途を辿っていきます。事業を発展させ、組織を継続させていくためには、固定観念や慣習、常識などにとらわれず、新しいことに果敢に挑戦していくことが重要だと言われます。

しかし、実際には固定観念や過去の成功体験から逃れることは決して容易とは言えません。人にはみな現状維持バイアスがあり、自分の記憶にある「従来の成功パターン」にとどまろうという働きが無意識のうちに行われます。

特定の業界、特定の組織、特定の職種での就労が長ければ長いほど、現状維持バイアスは強く働きます。事業を取り巻く環境、時代がすでに変わっているにも関わらず、これまでやってきた事業、商材、手法にこだわり、それを貫こうとする態度を持ってしまいがちです。というのも、イノベーションの本質は過去と現在の否定であり、新しいことをに取り組むためには、従来の方法が誤っていることを認めて受け入れなければならないからです。

とはいえ、自分が何十年もかけてやってきたことが、もはや時代遅れで誤りになっていると受け入れるのは容易ではありません。自分がやってきたことは何だったのかという気にすらさせられてしまいます。加えて、長い時間をかけて培ってきた従来のパターンを、別のものに変えていくのは非常に面倒な作業です。たとえ、より効果的で効率的な方法であったとしても、それを採用して適応するまでの変化の間が面倒で苦痛なのです。それゆえ、何か新しいことをやっていくよりも、現状を維持した方が良いという心理が働きます。

しかし、若手社員や中途社員は、良くも悪くもその組織や業務における経験が乏しいため、捉われる固定観念や常識、成功体験がありません。そのため、現状維持バイアスは働かず、物事をフラットな目で見ることができ、おかしいものをおかしいと言えるのです。ベテランにとっては当たり前になり過ぎていて気づかないおかしな慣習、手法、手続が、不合理で非効率であるとそのまま映るのです。

もちろん、思慮が浅かったり、勉強不足であったりする場合があります。どんな慣習や手法もそこに至った経緯があるため、それらを無視して軽率にムダだ、非効率だと論じるのも軽率かもしれません。

とはいえ、直感的におかしいと感じるのであれば、それを検証する価値が十分にあります。安易に否定せず、耳を傾けた上で、できる限り事実に基づいて論理的に考え、事の本質に迫ることができます。それまで気づかなかった新しいアイデアを導くことができ、時にそれが生産性を劇的に向上させるイノベーションにつながるのです。

アイデアの実現にはベテランの経験を活用せよ

アイデアは思いついて終わりではなく、実現してはじめて効果を発揮するものです。ところが、従来のやり方に不合理で非効率な面を見つけ、問題を特定できたとしても、それを具体的な解決策に落とし込むのは若手社員には力不足であることも考えられます。

ましてや、その解決策を実施するとなれば、若手社員だけで進めるのは極めて困難だと言えるでしょう。組織で課題解決を行うためには、組織内外の異なる利害関係者との合意形成を図られなればならないからです。資金、権限、人脈などのリソースが若手社員には圧倒的に不足しています。利害調整や交渉など、障害を乗り越えて課題解決をしていくスキルも不十分である場合が多いことでしょう。

そんな時こそ、経験豊富なベテランの出番だと言えます。これまで数々の苦難を乗り越え、問題解決と目標達成を積み重ねてきた経験を活かして、若者の生み出したアイデアを具現化する。その実現に向けてリソースを集め、利害を調整し、計画を前に進めていくのです。

環境が変わり、時代が変わったとしても、仕事を進めていくための本質的な力は大きくは変わりません。斬新な視点や着想は若手社員には敵いません。個別具体的な課題の特定と解決策の立案は若手社員に任せ、ベテランがその実現を行う。これが組織的にイノベーションを起こし、生産性を向上させていくプロセスなのです。

失われた30年と呼ばれるように、日本は経済成長が30年もの間ずっと停滞しているという異常事態に陥っています。必ずしもバブル崩壊以前にイノベーションに満ち溢れていたわけではありませんでしたが、大量生産・大量消費の時代には、言われたことを愚直に行う日本人の生真面目さが経済成長を牽引してきたと言えます。

ところが、それらを支えてきた源とも呼べる、終身雇用と年功序列の組織マネジメントが、バブル崩壊とともに効果を失ったにもかかわず、30年以上経過した現在もなお色濃く残っています。これが失われた30年の元凶の一つだと言っても過言ではないでしょう。そして、その年功序列モデルの弊害の一つが、おじさん発案、おじさん主導の組織マネジメントです。意思決定層を中高年男性に固定してきた結果、若者の声や発案を軽視して、現状維持バイアスにまみれた意思決定を行ってきたのだと言えます。

もちろん、問題意識が高く、勉強熱心な中高年の方もいます。最新の経営理論やテクノロジーを学び、アップデートを続けている、経験豊富なベテランが最強です。しかし、仮にそうであったとしても現状維持バイアスから逃れて、若者と同じ視点でフラットに自分の業界や組織を見ることは容易ではないことでしょう。

若手社員の素直で正直な着眼点と問題意識、ベテランの経験とスキルをうまく組み合わせた時にイノベーションが起こせます。そのためにも、私たちおじさんにはまず、自分たちが現状維持バイアスに捉われて問題を問題として認識できていないことを謙虚に認めることが求められます。

過去の成功体験はどんどん陳腐化し、経験と勘が必ずしもスキルとしての優位性を発揮しない時代になっています。従来のように、ベテランがすべてを決めて若手を労働力として使う時代はすでに終わっていると言えるでしょう。それぞれの強みを掛け合わせて、同質性では生み出せない新しい価値を生み出していくことが求められていると私は考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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