キャリア
2026.7.6

目次
「同じように努力しているはずなのに、なぜかあの人だけ物事がすんなり解決していく」そう感じたことはないでしょうか。実はその差は、経験の長さではなく、物事を見る「ステージ」の違いから生まれています。
この記事では、経営コンサルティングや人材育成の現場で数多くの事例を見てきた立場から、ステージを上げるために本当に必要な考え方を、具体的な方法とあわせて解説します。

仕事をしていると、資金が足りない、やり方が分からないといった問題に直面します。多くの場合、こうした問題にぶつかったとき、あれこれと対処法を考えるものの、思うようにうまくいかず悩んでしまうものです。
一方で、同じ問題に直面しても、あっさりと解決してしまう人がいます。「どうやって解決したのですか?」と尋ねると、「こうすればよかったんですよ」という答えが返ってきて、聞けば納得できる説明であることがほとんどです。
しかし、なぜ自分ではその発想に至らなかったのでしょうか。これは能力の差ではなく、ある状況に直面したときに、それが見える人と見えない人がいるという、物事を見る次元の違いによるものです。この次元の高さのことを、この記事では「ステージ」と呼びます。目の前のことだけに集中していると遠くは見えませんが、より高いところから見ると、より遠くまで見渡すことができ、「なんだ、こうすればいいのか」ということに自然と気づけるようになるのです。
ステージを上げるために必要なものは、経験の長さだと考える方もいるかもしれません。しかし、長く働いている年長者の中にも、優秀で成果を出し続けている人もいれば、年齢を重ねているもののあまり成長が見られない人もいます。経験の長さで言えば、両者ともそれなりの年月を積んでいるはずです。つまり、この差は経験の長さの問題ではないのです。
この差を生んでいるのは、経験のバラエティ、すなわち多様性の違いです。同じことを何年、何十年と繰り返せば、その分野における深みは出るかもしれません。しかし、同じことをやり続けている限り、その経験は一種類のままです。一つの物事だけに集中し、そこしか見ていないという状態では、見えてこないものが数多く存在します。だからこそ、経験の多様性が必要になるのです。
そもそもステージを上げるということは「成長する」ということです。そして、成長するということは、自分自身が良い方向へ変化するということにほかなりません。自分を変化させるためには、自分が変化するような経験を積む必要があります。
では、自分を変化させる経験とは何かというと、新しいこと、難しいこと、不慣れなこと、まとめて言えば「未知のこと」に取り組むという経験です。別の言い方をすれば、ストレスのかかることに取り組むとも言えます。
心理学やコーチングでは、これを「コンフォートゾーンの外に出る」と表現します。コンフォートゾーンとは、自分にとって心地よい領域、すなわち「安心領域」のことです。自分がすでに知っていること、すでにやったことがあること、経験済みのことは、その先の見通しが立つため安心・安全であり、何より楽です。ストレスがかかりにくいのです。
しかし、ストレスのかからないこと、つまり自分にとって「わかりきったこと」「できて当たり前」のことをどれだけ経験として積み重ねても、そこに成長は生まれません。自分にとって何の変化も刺激もないからです。
自分にとって未知のこと、よく分からないこと、難しそうなことに取り組むことが、自分自身に変化を与え、成長につながり、結果としてステージが上がるという理屈になるのです。
とはいえ、理屈としては理解できても、多くの人が新しい挑戦を避けてしまいます。その理由は、端的に言えば「失敗したくない」という気持ちにあります。初めて取り組むこと、難しいことは、うまくいく保証がありません。失敗するかもしれない。そして、失敗は痛みを伴い、格好の悪いものであり、ストレスのかかるものです。だからこそ、その痛みを避けたいがために、すでにやったことがある安全な選択肢へと逃げてしまうのです。
ここで一つ、注意しておきたい誤解があります。それは「失敗を恐れるな」「勇気を持って踏み出せ」という言葉です。一見励みになる言葉のようですが、この発想自体に無理があります。失敗を恐れないということは、成功することを前提としているということです。
しかし、新しいこと、難しいこと、不慣れなことに取り組んで、なぜ一発目から成功する前提に立てるのでしょうか。百発百中で物事を成功させられる人などいません。初めて自転車の補助輪を外したときに、一度も転ばずに乗りこなせた人がいるでしょうか。
100%成功すると思って取り組むということは、実は「できて当たり前」のこと、つまりコンフォートゾーンの内側にあることをやっているに過ぎないのです。それでは、新しい視点が身につくはずがありません。
むしろ失敗するということ自体が、自分にとって新しく、難しく、不慣れなことに取り組んでいる証なのです。挑戦のハードルが上がれば上がるほど、失敗する可能性が高くなるのは当然のことであり、それこそが正しい状態だと言えます。

では、どのようにして自分のステージを上げていくのか。具体的な方法をご紹介します。
ステージを上げる第一の方法は、意図的に経験の多様性を増やすことです。日々の業務を効率よくこなすことも大切ですが、それだけを繰り返していては、視野は広がりません。今まで関わったことのない業務に手を挙げてみる、これまで話したことのない部署の人と関わってみる、専門外の分野の勉強会に参加してみるなど、小さなことで構いません。重要なのは「経験の種類を増やす」という視点を常に持っておくことです。
筆者自身、独立してからは失敗の連続でした。新聞広告やリスティング広告、SNS広告など、さまざまな集客手段を試しましたが、問い合わせはほとんど来ず、営業電話が増えただけということもありました。数百万円をかけて高額なシステムを導入したものの、使いこなせずに無駄になったこともあります。
しかし、こうした失敗をひとつひとつ経験したからこそ、最終的には「仕事のきっかけは、結局のところホームページか知人からの紹介による」という、地道だが確実な結論にたどり着くことができました。これは、やってみたからこそ分かったことであり、やった人にしか分からない世界です。
第二の方法は、ある挑戦が自分のステージを上げるものかどうかを、感情を基準に判断することです。具体的には、その行動を考えたときに「嫌な気持ちになる」「怖い気持ちになる」「不安や緊張を感じる」のであれば、それは正しい方向に進んでいる証拠です。
逆に、そうした感情を伴わないのであれば、それはまだコンフォートゾーンの内側、つまり安心領域の中にとどまっているに過ぎません。どれだけそれを繰り返しても、自分自身のステージは上がっていきません。
この基準は、明日からすぐに使える実践的な判断軸です。例えば、新しい提案を上司に持ちかけようとしたとき、心の中で「これを言うのは気まずいな」と感じたなら、それはコンフォートゾーンの外に一歩踏み出そうとしているサインです。逆に「これくらいなら簡単に言えるな」と感じるのであれば、それはまだ安全圏の中にとどまっている可能性が高いと言えます。
第三の方法は、とにかく一歩を踏み出し、0を1にすることです。0が1になれば、その1を改善していくことは、0を1にすることに比べればはるかに簡単です。例えば、会社員として働いている状態から独立して起業するという決断は、まさにその典型です。固定収入がない世界に飛び込むことは、誰にとっても怖いものです。
筆者自身、独立の直前まで大きな不安を抱えていました。しかし、独立して5年が経過した今では、その世界はすでにコンフォートゾーンの内側になっています。「もう一度新しい会社を作るとしても、まったく怖くない」と言えるのは、一度その経験を積んだからにほかなりません。
一歩は小さくて構いません。今まで自分がやったことのないことに挑戦する、知らない人に会いに行く、知らない人と話してみる。そうした小さな新しい経験を積み重ねる習慣を身につけることが、日々の生活や仕事の中で自然とステージを上げていくことにつながります。

前述の通り、「失敗を恐れるな」という言葉は、成功を前提とした発想であり、そもそも矛盾をはらんでいます。新しいことに挑戦する際に「絶対に失敗しないように」と意気込んでしまうと、結果として挑戦のハードルを自分で下げてしまい、コンフォートゾーンの内側にとどまる選択をしてしまいがちです。「失敗して当然」という前提に立つことが、健全な挑戦のスタート地点です。
もう一つのNGパターンは、経験のバラエティを増やさずに、同じ種類の経験だけを繰り返してしまうことです。長年同じ業務、同じやり方を続けていると、その分野における習熟度は高まりますが、視野そのものは広がりません。
特にリーダーやマネージャーの立場にある方は注意が必要です。メンバーに対して「新しいこと、難しいこと、不慣れなことに挑戦しなさい」と伝えても、自分自身がそれを実践していなければ、メンバーへの説得力はありません。「あなたはやっていないのに、なぜ自分たちに求めるのか」と受け取られてしまうからです。リーダー自身が率先して未知の領域に踏み出す姿を見せることこそが、メンバーへの何よりのメッセージになります。
ここまで、ステージを上げるために必要な考え方について解説してきました。ステージの高さとは、経験の長さではなく、経験の多様性によって決まります。そして、経験の多様性を増やすためには、コンフォートゾーンの外に出て、新しいこと、難しいこと、不慣れなことに取り組む必要があります。
失敗は避けるべきものではなく、挑戦している証拠として受け止めるべきものです。ある行動が自分のステージを上げるかどうかは、ストレスのかかる感情、すなわち不安や緊張、怖さを感じるかどうかで判断することができます。
とはいえ、こうした考え方を理解しても、実際に日々の業務の中でどこから手をつければよいのか、一人で判断するのは簡単ではありません。特に、組織全体でメンバーのステージを引き上げていく必要があるリーダーやマネージャーの立場では、「自分自身の挑戦」と「メンバーへの働きかけ」の両方を同時に進めていく難しさに直面することになります。
そうした実践上の壁に直面したときこそ、体系立てられた知見やノウハウを活用することが有効です。弊社では、経営者やマネージャー層を対象に、ステージを上げる思考法や、組織全体の成長を促す人材育成の手法について、研修サービスを通じてお伝えしています。
書籍やセミナーの内容とあわせて、実際の現場で明日から使える具体的な考え方やアプローチを提供しておりますので、ご自身やチームのステージを本気で引き上げたいとお考えの方は、ぜひ一度弊社サービスをご覧ください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役社長。「デキる人を増やして社会をもっと快適にする」を理念に、人事・組織コンサルタントや研修講師として活動。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。
著作『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』
登壇実績 862件、1,015日間(のべ受講者数17,334名)*2025年12月末現在

次世代リーダーや自律型人材を育成する仕組みづくりや社員教育をお考えの経営者、管理職、人事担当者の方々。下記よりお気軽にお問い合わせください。(全国対応・オンライン対応も可能です)