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自律型人材

2026.4.30

研修だけでは育たない──自律型人材育成4つの柱と7つのステップ

「指示待ち人間」は本当に個人の問題なのか

「言われたことはきちんとやるが、言われたこと以上はやらない」

「自分からもっとこうしよう、ああしようというアイデアが出てこない」

このような社員の存在に頭を悩ませているリーダーやマネージャーは、非常に多くいらっしゃるのではないでしょうか。

すべてを指示しなければならない。すべてを具体的に説明しなければならない。これは管理者にとって、非常に大きな負担です。

こうした状況に対して、多くの企業がまず選ぶ手段が「研修」です。

確かに、主体性やモチベーションを高めるための研修は、一定の効果をもたらします。研修中や研修直後は参加者の意欲が高まり、「よし、やってみよう」という前向きな雰囲気が生まれます。しかし現実には、職場に帰るとすぐに元の状態に戻ってしまうことが少なくありません。

では、それは個人の性格や能力に原因があるのでしょうか。「最近の若者は根性がない」「うちの社員はやる気がない」そのようにおっしゃる経営者や管理職の方もいらっしゃいます。

しかし、少し立ち止まって考えてみましょう。その社員の方々は、本当に最初からやる気がなかったのでしょうか。受け身だったのでしょうか。

幼い子どもを見ればわかります。毎日「あれをやりたい」「これをやりたい」と親が止めても聞かないほど、主体的に、能動的に動こうとします。これが人間本来の姿です。

自分の好奇心や関心、興味に従って自分の意思で動く。人間は本来、主体的な生き物なのです。指示待ちと呼ばれる状態になってしまった方々も、例外ではありません。

では、なぜそうなってしまうのか。新入社員が4月に見せるあの目の輝き、「頑張るぞ」「やってやるぞ」という気持ちが、5月、6月、7月と時間が経つにつれてどんどん薄れていく。これは個人の問題ではなく、組織や職場環境の問題なのです。

自律型人材の育成を妨げる「7つの環境的阻害要因」

植物に例えると分かりやすいでしょう。良い土壌に良い種を蒔けば、良い作物が育ちます。しかし、どれほど優れた品種の種であっても、土地が痩せ細っていたり、十分な水が与えられなかったりすれば、作物は育ちません。人間も同じです。優秀な人材を採用し、手厚く教育したとしても、日々働く環境そのものが良くなければ、その人材はどんどんと力を失っていきます。

研修の効果を持続させるためにも、そもそも研修を実施しなかったとしても、日々の仕事の中で自ら考えて行動できる環境をつくることが不可欠です。ここでは、指示待ち人間を生み出してしまう7つの環境的阻害要因を解説します。

期待が不明確

「ちゃんと仕事をしてほしい」と伝えたとしても、「ちゃんと」とは何かが明確でなければ、社員はどこまでやればよいか分かりません。結果として、最低限の仕事で済ませようという判断になってしまいます。

裁量がない

「自分の頭で考えろ」「自分で決めろ」と言っても、実際に自分の判断で動ける権限が与えられていなければ、動いても怒られるだけという認識になります。

頑張っても報酬に反映されない

一生懸命働いて成果を出しても、最低限の仕事しかしていない同僚と給与がほとんど変わらなければ、頑張ることが馬鹿らしくなり、手を抜くようになっていきます。

評価基準が曖昧

何を頑張ればよいのか、どのような成果をどのレベルで出せばよいのかが分からなければ、闇雲に頑張ろうという気持ちにはなりません。

フィードバックがない

若手社員の研修でよく聞かれる声として、「自分がやった仕事に対してリアクションがない。これで良いのか悪いのかが分からないまま仕事をしていて、非常に不安」というものがあります。フィードバックがなければ、成長の実感も得られません。

仕事内容が変わらない

仕事が徐々に難しくなっていくからこそ、それに応えるために能力を高め、成長の実感が生まれます。何年経っても同じ仕事をしていれば、慣れによって楽にこなせるようになり、それ以上の努力をする必要性を感じなくなります。

学びの機会がない

新しい知識や情報のインプットがあるからこそ、「これを自分の仕事にどう活かすか」を考えるきっかけが生まれます。学びの機会がなければ、今まで通りのやり方で十分だという発想になっていきます。

これらの要因が複合的に重なることで、「自ら考えて行動することが損になる」「指示待ちでいる方が安全で楽だ」という環境が出来上がります。人間は環境に適応する生き物です。環境がそのようになっていれば、必要最低限の仕事しかしないという行動が「合理的」な選択になってしまうのです。

この状態を放置すると、生産性の低下、挑戦意欲の喪失、イノベーションの停滞、管理職の疲弊へとつながっていきます。

そして最も深刻なのが、負のスパイラルです。やる気のある優秀な社員ほど孤立感を覚え、見切りをつけて会社を去っていきます。優秀な人材ほど転職市場でも需要が高く、動き出すのも早いです。やがて組織には指示待ち人間だけが残り、マネジメントが機能しなくなり、業績はさらに悪化していくのです。

自律型人材育成を支える「4つの柱」

指示待ち人間の問題を個人の問題として捉えている限り、解決には至りません。個人の意識・能力・行動を変えていくことも重要ですが、それが活かされる職場環境をつくることも欠かせません。ここでは、自律型人材の育成環境を構成する4つの柱を紹介します。

第一の柱:求める人物像の明確化

「自ら考えて行動してほしい」という言葉は非常に抽象的です。自社においてそれが具体的にどのような行動を指すのかを言語化し、全員が共通のイメージを持てるようにすることが出発点となります。

そのためには、自社の経営理念・ビジョン・大切にしている価値観を踏まえるとともに、社内で望ましい活躍をしているロールモデルを観察し、その方がどのような点において優れているかを分析することが有効です。

そうして得られた「会社の価値観」と「優秀な人材の行動特性(コンピテンシー)」を組み合わせることで、自社が求める人物像が具体的に定義できます。この人物像が軸となり、残りの3つの柱に影響を与えていきます。

第二の柱:人事制度の設計

頑張った人が頑張った分だけ報われる仕組みがなければ、優秀な方ほど職場を離れていきます。自社が求める人物像が評価され、昇進・昇給につながるような人事制度を整えることが必要です。

具体的には、等級制度・給与制度・評価制度・教育制度の4つを組み合わせます。中でも重要なのは等級制度です。各等級において、自律性のレベル感を定義し、より主体的に自分の頭で考えて行動できる人でなければ上の等級に上がれない、給与が上がらないという仕組みをつくることが、自律型人材育成の環境整備につながります。

第三の柱:マネジメントシステムの整備

ここでいう「システム」とはITシステムではなく、仕組みのことです。仕事のマネジメントにおいては、報告・連絡・相談がベースになります。しかし多くの職場では、「何を報告すべきか」「どこまでは自分で判断すべきか」の線引きが曖昧なままです。だからこそ、望ましい行動をルール化することで、自然と適切な行動が促されるようになります。

例えば、「緊急の場合は電話、通常の報告はメールやチャットで、この順番・この形式で書く」といったルールを設けることで、望ましい行動パターンが体に染みつき、やがては具体的な指示がなくても自分で動けるようになっていきます。

また、1対1のミーティング(1on1)や複数でのミーティングを活用し、対話と質問による関わりを増やしていくことも重要です。はじめは指示・命令による管理型のマネジメントから入りますが、部下の成長に合わせて徐々に指示の度合いを弱め、「あなたならどうしたいか」「どうするか」を問いかけるスタイルに変えていきます。その延長線上に、自ら考えて行動するという状態が生まれます。

1on1は1〜2回試して手応えを感じられずに、すぐにやめてしまう方も多くいらっしゃいます。しかし、最初の数回は手探りであることが常です。3回、4回、5回と続けることで、初めてその意味や価値が実感できるようになります。続けるためにもルールを定め、必要なツールを整えることが、マネジメントの仕組みをつくるということです。

第四の柱:人材育成の仕組みづくり

人材育成を考える上で、ぜひ念頭に置いていただきたいのが「ロミンガーの法則(70:20:10の法則)」です。能力開発の要素のうち、70%は職場での実務経験、20%は上司からのフィードバックや指導(薫陶)、残りの10%が研修によるものとされています。

「たった10%か」と思われるかもしれませんが、10%でも相当な量です。年間240日勤務する会社で10%を研修に充てれば24日間、月に2回の研修に相当します。それほどの研修を実施できている企業は聞いたことがありません。研修はまだまだ不足しているのが現実です。

また、研修で学んだことを実務に活かすためには、1on1などで上司と部下が話し合う機会が必要です。実務経験の70%にあたる部分については、いわゆるOJT(On the Job Training:実務を通じた指導)を実施しますが、単に仕事をさせるだけでは不十分です。育成目標・育成計画に基づいて、必要な経験を計画的に積み上げていく配慮が求められます。さらに、自己啓発(自学自習)を促す取り組みも加えることで、OJT・研修・自己啓発の三位一体の人材育成の仕組みが完成します。

環境を整えるための「7つのステップ」

4つの柱を実際に整えていくにあたって、以下の7つのステップを順を追って進めていくことが有効です。

ステップ1:自社の自律型人材を定義する

「自ら考えて行動してほしい」という言葉を、具体的な行動・成果として表現します。誰が見ても明確に分かる言葉で、自社が社員に求めることを定義することが最初の一歩です。

ステップ2:心理的安全性の高い職場風土をつくる

「どうせ言っても聞いてもらえない」「反論・否定されるだけ」と感じていれば、誰も自ら考えようとしません。自分なりに考えたことが受け入れられる、少なくとも否定されないという安心感が、自律的なな思考の前提となります。

ステップ3:権限移譲と責任範囲の明確化

いきなりすべての責任を委ねることはリスクが大きすぎます。小さな範囲から徐々に自分の裁量で判断・行動できる領域を広げていき、その権限の大きさに見合った責任を担ってもらいます。責任感が芽生えることで、自ら考えて行動する姿勢が育まれます。

ステップ4:多様な学習環境を継続的に支援する

何もないところから物事を考えることは難しいです。定期的な研修の実施、資格取得への補助、動画学習サービスの導入など、日常的なインプットを促す多様な学習機会を整備します。

ステップ5:1on1を継続実施する

対話の機会がなければ、自分の頭で考えるきっかけそのものが生まれません。マネジャー・リーダーがコーチングスキルを身につけながら、対話と質問によるマネジメントの場として1on1を定期的・継続的に実施する仕組みを整えます。

ステップ6:自律型人材を評価する人事制度を整える

このステップは、実態が整い始めてから取り組むことが重要です。まだ職場の実態が伴っていない段階で制度の「枠」だけをつくっても、理想と現実の乖離が大きすぎて形骸化してしまいます。心理的安全性の高い職場風土が醸成され、自律的な行動や学びの機会が機能し始めた段階で、制度として整備していきます。

ステップ7:ロールモデルを提示し、成功体験を共有する

環境を整えても、全員が一様に自律性を高められるわけではありません。その中でいち早く変化が表れる方が現れたり、また以前から自律的に活躍している方もいたりします。こうした方々を「望ましい姿」として可視化し、具体的な言葉で紹介・表彰することで、「うちの会社ではこういう人が評価されるのだ」というイメージが広まります。そのイメージに続く方が1人、2人と増えていくことで、やがて組織文化そのものが変わり、7つの環境的阻害要因が自然と是正されていきます。

まとめ──環境を変えることが、人材を変える

指示待ち人間が生まれてしまうのは、個人だけの問題ではありません。7つの環境的阻害要因によって「自ら考えて行動することが報われない」「むしろ損をする」という環境が職場につくられてしまっていることが根本的な原因です。その環境の中でいくら研修を実施しても、一時的な対処で終わってしまいます。

環境そのものを変えるためには、4つの柱(求める人物像の明確化・人事制度の設計・マネジメントシステムの整備・人材育成の仕組みづくり)を整え、7つのステップを段階的に進めていくことが必要です。

個人を教育することに比べ、環境を変えることは多大なエネルギーを要します。いきなりすべてに取り組もうとすれば、気が遠くなることもあるでしょう。だからこそ、スモールスタートが必要です。まずは「自社が求める自律型人材の姿を言葉で定義すること」「心理的安全性の高い職場風土をつくること」「小さな権限移譲を段階的に進めること」から始めてみてください。

自律型人材の育成は、一朝一夕には実現しません。しかし環境を整え、正しいステップを踏み続けることで、組織は確実に変わっていきます。あなたの会社の社員の方々が、自ら考えて行動する自律型人材として活躍されることを、心からお祈りいたします。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この記事を書いた人

小松 茂樹(こまつ しげき)

中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役社長。「デキる人を増やして社会をもっと快適にする」を理念に、人事・組織コンサルタントや研修講師として活動。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。登壇実績 862件、1,015日間(のべ受講者数17,334名)*2025年12月末現在

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