マネジメント
2026.9.9

1on1を導入したものの、数か月後には業務報告の場に変わっていた。人事のご担当者から、よくお聞きする話です。
原因は、上司の力量不足ではありません。日程、問いかけの技術、続ける期間。この3つが設計されないまま始まったからです。3つとも、現場ではなく会社が決めることです。
目次
導入して3か月ほど経った会社で、実際に行われている1on1を見せていただいたことがあります。
会話は、こんな具合でした。
上司「今週の進捗どう?」
部下「〇〇は順調です。△△は少し遅れています」
上司「そう。じゃあ△△は今週中に終わらせて」
部下「分かりました」
10分で終わりました。
これは確認と指示であって、対話ではありません。同じ内容は、席で立ち話でも済みます。わざわざ時間を取って個室に入る意味が、なくなっています。
とはいえ、この上司の方を責める気にはなれませんでした。何を話す場なのかを、誰からも教わっていないからです。「部下と1対1で話してください」とだけ言われれば、思いつくのは進捗の確認です。
1on1がうまくいかないとき、原因は「あの課長は話を聞かないから」といった個人の資質に求められがちです。
同じ会社の中で、うまくいっている上司とそうでない上司が分かれているとしたら、それは属人的な問題かもしれません。しかし、全社的に形骸化しているなら、話は別です。
設計されていないものは、現場の努力では埋まりません。
この3つが決まっていない状態で始めれば、多くの場合、業務報告に落ち着きます。
そして、この3つを決められるのは会社です。現場の管理職に制度の設計を任せることは、極めて困難だと言えるでしょう。

「時間があるときにやってください」。この一言で始まった1on1は、まず定着しません。
管理職の方は、自分の業務を抱えたうえで部下の面談をします。予定に入っていないものは、忙しい週から順に飛ばされます。悪意ではなく、順番の問題です。
必要なのは、曜日と頻度を先に決めてしまうことです。毎週でなくて構いません。隔週30分でも、月1回45分でも、決まっていることのほうが重要です。
決めた日程は、上司ではなく会社が管理してください。実施率を集計するだけで、実施の状況は変わります。誰も見ていない予定は、静かに消えます。
「今週の進捗どう?」からしか始められないのは、上司の性格ではなく、技術を教わっていないからです。
1on1の目的は、上司が話を聞かせることでも、進捗を管理することでもありません。部下に自問自答を促すことです。
たとえば、先ほどの会話であれば、こう変えられます。
上司「△△が遅れているとのことだけど、一番の引っかかりは何だと自分では思う?」
部下「……たぶん、先方の確認待ちの時間を読み違えていました」
上司「次に同じ状況になったら、どこを変えられそう?」
やっていることは質問を2つ足しただけです。しかし、これだけで考えているのは部下の側になります。指示を出せば5秒で済む場面で、あえて問いかけるのは、慣れないうちは苦しいものです。
この技術は、意識だけではなかなか身につきません。管理職に練習の機会を用意する必要があります。とはいえ、研修を1回やって終わりにするだけと、職場に戻った時点で元の話し方に戻ってしまいます。研修で学んだことを実践するためには、反復練習をする仕掛けが必要になります。この点については研修を毎年やっても組織が変わらない理由をご覧ください。

「2、3回やってみましたが、話すことがなくなりました」。導入した会社から、よく聞く言葉です。
これは当然のことだと思います。それまで業務の話しかしてこなかった相手と、いきなり深い話にはなりません。1回目は表面的な話で終わり、2回目は前回の続き、3回目で話題が尽きる。ここでやめると、「うちには合わなかった」という結論だけが残ります。
関係が変わるのは、その先です。何度も繰り返すうちに、この場では答えを急かされないと分かってきます。すると、まだ整理できていない悩みや、言いかけて飲み込んでいた話が出るようになります。
1on1は少なくとも半年は続けましょう。話すことがなくなったように思えても、とにかく場をセッティングします。沈黙に耐えられず、無理矢理にでも話題を捻り出そうとするようになります。そこからが本当のスタートです。
効果が出る前に判定してしまうと、次に何を導入しても「どうせまた続かない」と思われます。そして、一度失敗した施策を再び導入する方が、ゼロから始めるよりもはるかに難しくなります。
日々の関わり方をどう変えるかは、「うちの社員はやる気がない」と言う前に確認したい3つのことにもまとめています。

物事を定着させるためには、施策の一貫性が必要です。社員が自分の頭で考え、自律的に行動できるようになるためには、求める人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4つの柱がすべて連動していることが求められます。
なお、自社の4分野がどうなっているかは、10分の無料診断で確認できます。一度、点検してみることで課題が見えてくるはずです。

すでに全社で始めている場合も、立て直しは可能です。来月から着手できることを3つ挙げます。
1つ目は事実の把握です。実施率が5割を切っていれば、中身以前に日程調整の問題です。
2つ目が、実は最も効きます。社外の手法を持ち込むより、社内で成立している事例の方が、はるかに管理職に届きます。その方の質問を3つ書き出せば、それが自社の手引きになります。
3つ目は、全社展開の前段です。試験的に5組を選んで半年やってみて、続けられた組と続かなかった組の違いを見てください。その違いが、自社に足りない条件です。
なお、問いかけの技術を管理職に身につけてもらう部分は、社内だけでは難しいことがあります。研修と職場のしくみをどう連動させるかは、企業研修のご案内をご覧ください。
1on1が業務報告の場に変わるのは、上司の力量不足ではありません。
この3つが原因です。3つとも、会社側が設計する必要があります。
自社の状況がどうなっているのかは、内側からは見えにくいものです。人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4分野について、どこが弱いかを10分で数値にする無料診断をご用意しています。今回の内容は、診断の「マネジメント」の項目に対応しています。
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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第3章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』