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人材育成

2026.9.29

OJTが「見て覚えろ」になっている職場の限界

現場に配属した後の育成が、指導役まかせになっている。人事のご担当者から、よくお聞きする話です。

原因は、指導役の怠慢ではありません。到達点、教える順番、指導する時間。この3つが用意されないまま任されているからです。3つとも、現場ではなく会社が決めることです。

3か月経っても、何を覚えたか分からない

ある会社で、配属3か月後の新入社員の方にお会いしたことがあります。

「この3か月で、何ができるようになりましたか」と伺いました。

しばらく考えて、こう返ってきました。「先輩についていって、だいたいの流れは分かりました。ただ、一人でできるかと言われると、自信がないです」。

同じ日、指導を担当されている先輩の方にも伺いました。「あの子には、ひととおり教えました。あとは場数かなと思っています」。

どちらも嘘ではありません。ただ、「ひととおり」が何を指すのかは、二人の間で一致していませんでした。

指導役は、教え方を教わっていない

多くの会社では、成果を上げている担当者が指導役に任命されます。自然な人選です。

しかし、仕事ができることと、教えられることは別の技術です。

自分がどうやってその仕事を覚えたかを思い出せる人は、そう多くありません。長く続けるうちに、手順は体に入り、意識しなくてもできるようになります。意識していないことは、言葉にできません。

結果として出てくるのが「見て覚えて」です。これは指導を放棄しているのではなく、教える手順を持っていないことの表れです。

加えて、指導役に任命されても、自分の業務は減っていません。自分の仕事を抱えたまま、後輩の面倒を見る。時間がなければ、背中を見せるしかなくなります。

そして、教え方を身につける機会も、指導の時間も、現場では用意できません。会社が決めることです。

到達点・教える順番・指導する時間の3つが欠けたときに、OJTがどうなるかを示した図
図:OJTが「見て覚えろ」になる3つの欠落」

欠落1|到達点が決まっていない

最初の問題は、いつまでに何ができるようになればよいかが決まっていないことです。

到達点がなければ、指導役は自分の判断で教える内容を決めます。本人も、自分がどこまで来たのかを確かめられません。冒頭の「ひととおり教えました」と「自信がないです」のずれは、ここから生まれます。

必要なのは、3か月後、6か月後、1年後に、何が一人でできていればよいのかを文章にすることです。

書くときの基準は、第三者が見て確認できるかどうかです。「基本的な業務を理解している」では確認できません。「見積書を一人で作成し、上長の確認だけで提出できる」であれば確認できます。

そして、この到達点は指導役だけが持っていても意味がありません。管理職、指導役、本人の三者が同じものを見ている状態にします。

欠落2|教える順番が決まっていない

2つ目は、教える順番と範囲が決まっていないことです。

順番がなければ、その日に発生した業務から教えることになります。断片的になり、抜けが出ます。そして、突発的な業務が入れば、指導は後回しになります。

覚えるべき項目を一覧にして、済みと未着手が分かる状態にしてください。紙一枚で構いません。

一覧があると、3つのことが変わります。指導役は次に何を教えるか迷わなくなります。本人は自分の進み具合が見えます。管理職は、誰が何を担当できるのかを把握できます。

そして、指導役が変わっても引き継げます。属人化を防ぐのは、指導役の記憶ではなく一覧です。

欠落3|指導する時間が確保されていない

3つ目は、指導役の時間です。

「見て覚えろ」という言葉の多くは、時間がないことの言い換えです。自分の業務量が変わらないまま指導を任されれば、丁寧に教える余裕はありません。

ここで必要なのは、精神論ではなく業務量の調整です。指導役の担当業務を一時的に減らす。あるいは、指導に使った時間を業務時間として扱う。どちらかがないと、指導は善意の持ち出しになります。

持ち出しで成り立っている育成は、その人が異動した瞬間に止まります。

人の成長は、その大半が日々の仕事の中で起きます。研修だけを増やしても組織が変わらない理由については、研修を毎年やっても組織が変わらない理由をご覧ください。配属後の環境については、新入社員の目が半年で輝きを失う職場に共通することもあわせてご覧ください。

今週、1人分だけ書いてみる

全社の育成体系を作る必要はありません。今週から着手できることを3つ挙げます。

  • 新人1人を選び、3か月後にできてほしいことを5つ書き出してもらう(指導役・本人・上司の三者それぞれに)
  • 3者の答えを並べ、一致している項目がいくつあるかを数える
  • 覚えるべき項目を一覧にして、済みと未着手を記入してもらう

1つ目と2つ目で答えがずれていれば、到達点が共有されていないという事実が手元に残ります。感覚ではなく事実なので、経営に持っていけます。

3つ目は紙一枚で足ります。作った瞬間に、抜けている項目が見えます。

この3つは、1人分から始められます。うまくいけば、他の新人にも広げてください。

なお、指導役に教え方を身につけてもらう部分は、現場だけでは用意できません。研修と職場のしくみをどう連動させるかについては、企業研修のご案内をご覧ください。

まとめ

OJTが「見て覚えろ」になるのは、指導役の怠慢ではありません。到達点が決まっていない、教える順番が決まっていない、指導する時間が確保されていない。この3つが原因です。3つとも、会社が用意する側にあります。

自社の育成のしくみがどうなっているかは、内側からは見えにくいものです。人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4分野について、どこが弱いかを10分で数値にする無料診断をご用意しています。今回の内容は、診断の「人材育成」の項目に対応しています。

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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第3章をもとに再構成したものです。

著者

小松 茂樹(こまつ しげき)

株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』

原因は、社員ではなく環境にあります。自社の環境がどうなっているかは、10分で数値になります。

TEL.
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