人材育成
2026.9.30

育成体系を作ったつもりが、研修の一覧表になっている。人事のご担当者から、よくお聞きする話です。
原因は、研修から作り始めているからです。先に決めるのは、どの階層に何ができるようになってほしいかという能力要件です。それから、その能力をどこで身につけるかを割り当てます。この記事では、4つの手順をご説明します。
ある会社で、育成体系の資料を見せていただいたことがあります。階層ごとに研修名が並び、実施月まで書かれていました。よく整理されています。
「新任管理職研修が2日間ありますが、この2日で何ができるようになる想定ですか」と伺いました。
少し間があって、こう返ってきました。「前任者から引き継いだときには、もうこの形でした」。
責められる話ではありません。多くの会社で、育成体系は研修の実施計画として引き継がれています。毎年きちんと実施され、それ自体は止まっていないからです。
ただ、これだと2つのことが起きます。効果が出ていない研修を外せません。そして、必要な能力が抜けていても気づけません。
育成体系をつくる作業は、研修を選ぶことから始めるものではありません。
先に決めるのは、どの階層の人に、何ができるようになってほしいかです。これが能力要件です。能力要件が先にあって初めて、それをどこで身につけるかという話になります。
そして、身につける場所は研修だけではありません。日々の仕事の中での指導、研修、自分の意思で行う学習。この3つがあります。
人の成長は、その大半が日々の仕事の中で起きます。研修で埋められる範囲はごく一部です。ここを踏まえずに研修だけを増やしても、残りは手つかずのままになります。研修の効果が残らない理由については、研修を毎年やっても組織が変わらない理由をご覧ください。

最初に、体系の枠組みを決めます。
縦軸は階層です。新入社員、若手、中堅、管理職。等級制度があれば、その区分に合わせます。等級と育成体系がずれていると、昇格の要件と育成の内容が噛み合わなくなります。
横軸は、全社共通と職種別の2つです。全社共通は、どの職種でも必要になる力。職種別は、営業、技術、管理部門など、その職種に固有の力です。
枠の数は、階層4つ×2列で8枠程度から始めれば十分です。最初から職種を細かく分けると、埋まらない枠が大量に出ます。
枠が決まったら、そこに入る能力を書き出します。
材料は、求める人材像と等級定義です。「中堅社員は自ら課題を設定し、解決策を推進する段階」と定義されているなら、そこから必要な力を分解します。課題を見つける力、原因を分析する力、関係者を巻き込む力、といった形です。
ここで新しく考え出す必要はありません。すでにある定義を、能力の単位に分解する作業です。人材像がまだない場合は、先にそちらを作ってください。作り方については、求める人材像の作り方|抽象的な言葉で終わらせないためにをご覧ください。

書き出すときの基準は、第三者が見て確認できるかどうかです。「リーダーシップ」では確認できません。「会議で結論が出ないときに、論点を整理して選択肢を示せる」であれば確認できます。
1枠あたり3つから5つで足ります。多く書きすぎると、次の手順で割り当てきれなくなります。
ここが、研修マッピングと呼ばれる作業です。
書き出した能力を一つずつ見て、どこで身につけるかを決めます。選択肢は3つです。
実務の手順、顧客の事情、社内の調整の仕方。これらは現場でしか身につきません。ただし、放っておいて身につくわけではないので、到達点と教える順番を決めておく必要があります。この点については、OJTが「見て覚えろ」になっている職場の限界をご覧ください。

理論や枠組み、社内にいては触れられない考え方、他社の人と議論して得られる視点。体系的に短時間で渡せるものが向いています。
業界動向の情報収集、一般教養、資格。個人に帰属する能力は、会社が時間まで用意するものではありません。会社にできるのは、学習環境の整備や資格取得費用の補助といった、投資しやすい条件を整えることです。

この割り当てをすると、たいてい2つのことが分かります。
ひとつは、研修に載せすぎていたということです。現場でしか身につかない力まで研修で扱おうとして、結果として研修が総花的になっています。
もうひとつは、どこにも割り当てられていない能力があるということです。必要だと書き出したのに、身につける場所がない。ここが、体系の穴です。
最後に、研修として残した項目について、前後を設計します。
研修は、実施するだけでは残りません。次の3つを、実施計画と一緒に決めてください。
この3つを研修の前後に置いて、はじめて1本の設計になります。研修名と実施月だけの一覧表と、ここが違います。
体系を作り直すには数か月かかります。今週から着手できることを3つ挙げます。
1つ目で手が止まれば、その研修は目的が引き継がれていないということです。
2つ目は、経営に持っていける事実になります。「育成体系を見直したい」という相談は動きませんが、「12本のうち7本は、目的を書けませんでした」という報告は動きます。
3つ目で「どこにもない」という能力が出てきたら、そこが体系の穴です。1つ見つかれば、着手する場所が決まります。
なお、研修の設計と職場のしくみを連動させる部分は、社内だけでは難しいことがあります。研修については企業研修のご案内を、体系全体の設計を含む進め方についてはコンサルティングの進め方をご覧ください。

育成体系が研修の一覧表で終わるのは、研修から作り始めているからです。階層と職種で枠を決め、各枠に必要な能力を書き出し、それをどこで身につけるかを割り当てる。研修として残した項目は、前後まで設計する。この順序で進めます。
自社の育成のしくみがどうなっているかは、内側からは見えにくいものです。人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4分野について、どこが弱いかを10分で数値にする無料診断をご用意しています。今回の内容は、診断の「人材育成」の項目に対応しています。
結果は経営層への共有にもお使いいただけます。ご関心のある方は、ぜひお試しください。
本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第3章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』