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人材育成

2026.10.6

70:20:10の法則で育成を見直す|研修を職場で活かす

記事タイトルとサムネイル文言「研修は1割」を配置したアイキャッチ画像

人の成長は、7割が仕事の経験から、2割が他者との関わりから、1割が研修などの公式学習から生まれる。

「70:20:10」と呼ばれる考え方です。

ただし、これは「研修を減らせ」という話ではありません。むしろ、これまで研修を中心に考えがちだった人材育成を、仕事の経験や上司・周囲との関わりまで含めて設計するという考え方です。

この記事では、70:20:10という数字がどこから来たのか。そして、人材育成にどう活用すればよいのかをお伝えします。

育成施策として管理されているのは、1割の部分だけ

人事のご担当者が年間で管理している育成の仕事を書き出すと、たいていこうなります。

  • 新入社員研修
  • フォロー研修
  • 階層別研修
  • 管理職研修
  • 実施日程の調整
  • 講師の手配
  • 受講者の選定
  • アンケートの集計

これらはすべて、研修に関する仕事です。

一方で、

誰にどんな仕事を任せるか。

  • 少し背伸びをしなければできない仕事を、誰に経験させるか。
  • 誰が誰を指導するか。
  • 上司が部下の行動に対して、どのようなフィードバックを返すか。

こうした部分は、現場の裁量に委ねられていることが少なくありません。

70:20:10の考え方に当てはめれば、多くの企業で育成施策として最も明示的に計画され、予算がつき、実施記録が残っているのは、「10」の部分にあたる研修です。

しかし、人が成長する機会は研修室の中だけにあるわけではありません。日々の仕事そのものや、上司・先輩・同僚との関わりの中にも、大きな学習機会があります。

数字はどこから来たのか

この比率の出どころを、先に確認しておきます。

70:20:10の背景にあるのは、米国のCenter for Creative Leadership(CCL)が1980年代から行ってきた「Lessons of Experience」と呼ばれる研究です。

モーガン・マッコール、マイケル・ロンバルドらは、成功した経営幹部に、キャリアの中で自分を成長させた重要な経験を振り返ってもらい、その内容を分析しました。その成果は1988年の『The Lessons of Experience』などにまとめられています。

ただし、元の調査結果が、そのまま70:20:10だったわけではありません。CCLが後に紹介している原データでは、重要な学びの源泉は、おおむね次のような構成でした。

  • 約50%が、挑戦的な仕事
  • 約20%が、他者との関わり
  • 約20%が、困難や逆境

残りが、研修などの公式学習や私生活からの学びです。

その後、マイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーらによって、企業の人材育成で活用しやすい形に整理され、1990年代に

  • 70%=挑戦的な仕事経験
  • 20%=他者との関わり
  • 10%=研修などの公式学習

という70:20:10の考え方が広く知られるようになりました。日本では、ロンバルドらが所属した組織名に由来して「ロミンガーの法則」と呼ばれることもあります。

この数字を、そのまま信じないほうがよい

ここで、数字の限界にも触れておきます。

そもそも、この研究は「人の成長の70%が経験によって決まる」と科学的に測定したものではありません。成功した経営幹部が、自分のキャリアを振り返り、「自分にとって大きな学びになった出来事は何だったか」を答えた結果を分類したものです。

したがって、本人の記憶に基づく自己申告です。何年、あるいは何十年も前の経験を振り返って答えるため、強く印象に残った出来事が挙がりやすいという特徴があります。

また、主な研究対象は成功した経営幹部です。新入社員から経営幹部まで、あらゆる階層の人を調査して、「すべての人の成長は70:20:10になる」と証明した研究ではありません。

さらに、先ほど述べたように、元の研究結果そのものが70:20:10だったわけでもありません。70:20:10という数字は、人の成長を精密に測定して導き出された普遍的な法則ではなく、育成を考えるために整理された目安と考えるのが妥当です。

だから私は、「人は必ず70:20:10の割合で成長する」とは考えていません。一方で、「人の成長は、研修だけで起きているわけではない」という示唆には、大きな意味があると考えています。

CCLのその後の研究や現在のリーダー育成の考え方でも、挑戦的な仕事経験は主要な学習源として位置づけられています。比率そのものを信じるのではなく、育成施策の配分を考えるための道具として使う。

これが70:20:10の妥当な扱い方だと考えています。

挑戦的な仕事・他者からの関わり・研修の3つについて、それぞれ会社が打てる手を並べた図
図:3つの学びの場と、会社が打てる手

7割の部分に、会社は手を打てる

経験から学ぶと言うと、「現場に任せるしかない」と受け取られがちです。しかし、ここにこそ、会社が設計できる余地があります。

鍵になるのは、「どんな仕事を任せるか」です。毎年同じ仕事を同じ人が担当している職場では、この7割がほとんど動いていません。

仕事の難易度は、4つの方向で上げられる

「挑戦的な仕事」と言われても、何を渡せばよいか迷うと思います。実務では、次の4つのどれかを一段上げると考えると整理できます。

1.範囲を広げる

担当する工程や顧客を増やす。今まで一部だけ見ていた仕事の、前後を任せる。

2.判断を増やす

これまで上司が決めていたことを、本人が決める形にする。金額、進め方、優先順位。決める対象を1つ増やすだけでも、仕事の質は変わる。

3.関係者を増やす

社内の調整、他部門との折衝、顧客との直接のやりとり。一人で完結する仕事より、人を動かす仕事のほうが負荷は高くなります。

4.前例のないものを渡す。

手順書のない仕事、過去に誰もやっていない案件。正解を知っている人が社内にいない状態が、最も学習が起きます。

4つを同時に引き上げると、本人が潰れます。1つずつ上げて、できたら次を上げる。この積み上げが、育成の実体です。

渡す前に、4つを揃える

ただし、難しい仕事を渡せば勝手に育つわけではありません。渡す前に揃えておくものがあります。

  • 目的:何のための仕事で、誰に届くのか
  • 完成の基準:いつまでに、どうなっていればよいのか
  • 決めてよい範囲:どこまで自分で判断し、どこから相談するのか
  • 途中の確認日:進捗報告をするタイミング

この4つがないまま渡すと、丸投げになります。そして丸投げで失敗すると、次から任せられなくなります。詳しくは部下に仕事を任せる手順|丸投げと権限委譲の違いをご覧ください。

丸投げと権限委譲を、目的の共有・決定範囲・確認の頻度・責任の所在で対比した図

失敗の扱いが、次の経験を決める

経験から学ぶというとき、うまくいった経験だけを指しているわけではありません。

CCLの調査でも、成長に影響した経験として挙げられたものの多くは、順調な成功ではありませんでした。うまくいかなかった案件、判断を誤った場面、厳しいことを言われた出来事です。

ですから、任せた仕事が外れたときの扱いが重要になります。「だから言っただろう」で終われば、その人は二度と自分で決めません。確認するのは結果ではなく過程です。どういう材料で、何を基準にそう決めたのか。過程に問題がなければ、結果が外れても任せ方は変えない。

この一貫性がある職場でだけ、7割の部分が機能します。

2割の部分は、放置されやすい

他者から学ぶ部分、つまり上司や先輩からの助言、やった仕事への反応、他部門の人の仕事ぶりを見ること。ここは、施策として設計されていない会社がほとんどです。

1on1も、指導役の配置も、評価面談も、本来はこの2割にあたる施策です。にもかかわらず、育成の計画書には載っていないことが多いように思います。

誰が関わるかを、決めておく

まず決めるのは、誰がその人に関わるかです。

直属の上司だけに任せると、関わり方がその人の性格に左右されます。上司とは別に指導役を置く、他部門の先輩と接点をつくる、担当を1年で交代する。関わる人を複数にしておくと、相性による当たり外れが減ります。

中小企業では人数に限りがありますが、だからこそ「この人には誰が関わるのか」を決めておく価値があります。決まっていなければ、誰も関わらないまま1年が過ぎます。

現場の指導が「見て覚えろ」になる理由については、OJTが「見て覚えろ」になっている職場の限界をご覧ください。

反応を返す場を、日程として押さえる

次に、関わる頻度を決めます。

「気づいたときに声をかける」では、忙しい時期に消えます。隔週30分でも、月1回45分でも構いません。日程として押さえてあることのほうが重要です。

ここで扱うのは進捗の確認ではありません。任せた仕事で何に迷っているか、どう判断したか。本人に考えさせる問いかけが中心になります。この場が業務報告に変わってしまう理由については、1on1が形骸化する理由|続かない会社に共通する3つの条件をご覧ください。

2割の部分は、予算がほとんどかかりません。かかるのは時間と、誰が関わるかという決定だけです。にもかかわらず手つかずの会社が多いのは、育成施策として数えられていないからです。

1割の部分だからこそ、使い道を絞る

では研修は軽視してよいのかというと、そうではありません。むしろ、逆です。

研修でしか得られないものに絞る

割合が小さいからこそ、研修でしか得られないものに絞る必要があります。

理論や枠組み。断片的な経験を整理する軸になります。社内にいては触れられない考え方。他社の人と議論して得られる視点。同じテーマについて他の人がどう考えるかを知ることは、現場では得にくい学びです。

逆に、実務の手順や社内の調整の仕方を研修で扱おうとすると、総花的になって何も残りません。何をどこで身につけるかの割り当てについては、育成体系のつくり方|研修マッピングと能力要件をご覧ください。

能力要件を、日々の仕事・研修・自己啓発のどこで身につけるかに割り当てた表
図:能力要件と、身につける場所の割り当て

研修と、7割・2割をつなぐ

そして、研修の効果が職場で消える理由は、割合の問題だけではありません。戻る場所が変わっていないという問題もあります。この点については研修を毎年やっても組織が変わらない理由をご覧ください。

ここで有効なのが、3つを分けて考えずにつなぐことです。

研修で枠組みを学んだら、それを使う仕事を任せる。任せた仕事について、上司が問いかけを返す。この順でつながったとき、1割の研修が7割と2割の中で生き続けます。

逆に言えば、研修だけを単独で実施している限り、その研修は1割のまま終わります。割合が小さいこと自体は問題ではありません。つながっていないことが問題です。

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自律型人材が育つ4つの柱の構造図
図:自律型人材が育つ4つの柱

自社版の70:20:10を、自分で取ってみる

借り物の数字を使う前に、自社で同じ調査をすることをおすすめします。今月から着手できることを3つ挙げます。

  • 幹部や中堅社員5人に「これまでで、自分の成長に一番効いた経験は何ですか」と聞く
  • 今年度の育成予算を集計し、研修費が何割を占めるかを数える
  • 直近1年で、若手に「やったことのない仕事」を任せた回数を数える

1つ目が最も効きます。CCLがやったことと同じで、おそらく研修の名前はほとんど出てきません。出てくるのは、初めて任された案件、うまくいかなかった仕事、厳しいことを言ってくれた上司の話です。

その回答は、社内で最も説得力のある材料になります。「70:20:10という考え方があります」より、「うちの幹部5人に聞いたら、全員が初めて任された仕事の話をしました」のほうが動きます。

2つ目と3つ目を並べると、予算の配分と、実際に成長が起きている場所のずれが見えます。

なお、仕事の任せ方や指導のしくみまで含めて整える場合、社内だけでは難しいことがあります。研修については企業研修のご案内を、育成のしくみ全体の設計についてはコンサルティングの進め方をご覧ください。

まとめ

70:20:10は、研修を減らすための数字ではありません。成長の9割が起きている場所を、育成施策として設計対象にするための目安です。

比率そのものは自己申告に基づく概算であり、厳密な法則ではありません。それでも、経験・他者・研修という順序は一貫しています。どんな仕事を誰に任せるか、誰がどう関わるかを設計の対象にしたとき、育成の範囲は大きく広がります。

自社の育成のしくみがどうなっているかは、内側からは見えにくいものです。人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4分野について、どこが弱いかを10分で数値にする無料診断をご用意しています。今回の内容は、診断の「人材育成」の項目に対応しています。

結果は経営層への共有にもお使いいただけます。ご関心のある方は、ぜひお試しください。

人材育成について、さらに詳しく

7割|仕事の経験から学ぶ

2割|他者との関わりから学ぶ

1割|研修から学ぶ

全体の構造

本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第3章をもとに再構成したものです。

著者

小松 茂樹(こまつ しげき)

株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』

原因は、社員ではなく環境にあります。自社の環境がどうなっているかは、10分で数値になります。

TEL.
078-600-2761