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人事制度

2026.9.16

人事制度が形骸化する理由|作って終わりにしないための設計

費用をかけて人事制度を作ったのに、2年後には誰も見ていない。中小企業の経営者から、よくお聞きする話です。

原因は、制度の出来ではありません。運用が設計されていないからです。等級・評価・賃金がつながっていない。評価者が判断できる形になっていない。運用する人の仕事が決まっていない。一度に全社へ広げてしまった。こうした状況では、どれだけ良い制度を作っても形骸化してしまいます。

この記事では、4つの原因と直し方をご説明します。

キャビネットに眠っている制度

ある会社で、人事制度の資料を見せていただいたことがあります。

分厚いバインダーが3冊。等級定義、評価表、賃金テーブル、運用マニュアル。どれも丁寧に作り込まれていました。数百万円かけて作られたそうです。作成したのは、私も知っている著名なコンサルティング会社とのことでした。

社長に「これ、今はどう運用されていますか」と伺いました。

「評価だけはやってます。年に2回、シートを出してもらって」

では等級はどう決まっているのか、賃金はどう連動しているのかを伺うと、答えは「実質的には前と変わっていない」でした。

制度を作った会社が悪かったのかというと、資料を見る限り、そうとも言えません。内容そのものは、よくできていました。

問題は、この制度を誰がどう回すのかが、どこにも書かれていなかったことです。

運用されないのは、設計の問題である

人事制度が定着しないとき、原因は現場の意識に求められがちです。「管理職が評価を面倒がる」「社員が制度に関心を持たない」といった話です。

しかし、同じ制度を導入しても、回る会社と回らない会社があります。人の意識の差というより、設計の差だと考えるほうが妥当です。自分の処遇を決める人事制度に関心を持たない社員は、そう多くないでしょう。使われていれば、関心を持つはずです。問題は「作ったけど、使われていない」の一点につきます。

制度は、作った時点では半分しかできていません。 残りの半分は、誰が、いつ、何をするのかという運用の設計です。ここが空白のまま渡されると、現場は前年と同じやり方に戻ります。慣れているので、それが最も確実で、安心だからです。新しいことや複雑なことをやるのは「面倒くさい」のです。

そして、この運用まで含めて決められるのは経営です。管理職に「うまく運用してください」と言っても、動かす権限がありません。

制度が形骸化する原因を、私は4つに整理しています。

原因1|等級・評価・賃金がつながっていない

最も多いのがこれです。3つの制度がそれぞれ独立して存在し、互いに参照されていません。

参照されない等級は、名簿になる

等級定義に「自ら課題を設定し、解決策を推進する」と書かれているとします。ところが評価表を見ると、まったく別の項目が並んでいる。

こうなると、社員は等級定義を読みません。読んでも自分の処遇に影響しないからです。等級は、単なる社員名簿の分類欄になります。形だけ存在しているだけ。社員は評価にだけに着目してしまいます。

評価項目は、等級定義から抜き出して作ります。等級に書いてある言葉が評価項目に出てくる。この対応があって初めて、社員は次の段階に行くために何をすればよいかを理解できます。

等級の作り方については、中小企業の等級制度の作り方|役割を言葉にするをご覧ください。

評価が賃金に届いていない

もうひとつよくあるのが、評価はしているのに、結果が処遇にほとんど反映されていない状態です。

評価がAでもBでも、賞与が数万円しか変わらない。昇給額はほぼ一律。これでは、時間をかけて評価する意味が社員に伝わりません。

期待以上に働く人と、最低限しかやらない人の処遇が同じであれば、仕事をしない人ほど得をする構造になってしまいます。その結果、優秀な社員から順に辞めていくのです。

反映の幅をどこまで広げるかは、会社の体力に寄ります。実際には、社会通念上許される範囲というのも存在します。とはいえ、評価の反映幅がゼロに近い制度は、運用する労力に見合いません。

求める人材像から等級、評価項目、賃金までが一本の線でつながっている状態を示した図
図:人材像から賃金までの連動

起点は、求める人材像にある

3つをつなぐ線の始点は「求める人材像」です。

どんな人を育てたいのかが定まっていなければ、等級の水準も評価項目も決められません。人材像を経由しない人事制度は、どこの会社にも当てはまる一般的なものになります。作り方については、求める人材像の作り方|抽象的な言葉で終わらせないためにをご覧ください。

原因2|評価者が判断できる形になっていない

制度がつながっていても、評価が機能しなければ止まります。

形容詞では、点数が付けられない

評価項目に「主体性がある」「責任感がある」と書かれているだけでは、評価者は判断できません。何をもって5とするのか、どこからが2なのかが分からないからです。

判断できない評価者は、説明の要らない点数を選びます。その結果、5段階評価で全員が3に集まります。

必要なのは、5段階のそれぞれについて、どういう行動が見えていればその点数なのかを文章にすることです。詳しくは5段階評価で全員が3に集まる会社の共通点をご覧ください。

評価項目が形容詞だけの状態と、5段階それぞれが文章で記述された状態を比較した図
図:評価基準を判断できる形にする

評価者研修は、基準ができた後に効く

基準が曖昧なまま評価者研修を実施しても、分布は変わりません。判断の根拠が手元にないからです。

逆に、5段階の記述がある状態で研修を行えば、内容が「この行動は4か3か」という具体的な議論になります。基準が先、訓練が後なのです。

原因3|運用する人の仕事が設計されていない

制度が整い、基準が明確でも、回す人の動きが決まっていなければ止まります。

誰が、いつ、何をするのかが書かれていない

多くの制度資料には、評価の考え方は詳しく書かれています。一方で、年間を通じて誰が何をするのかは書かれていません。

目標設定はいつ行うのか。中間の面談はあるのか。評価の入力期限はいつか。調整会議は誰が集まるのか。結果は誰が本人に伝えるのか。

この一覧が1枚にまとまっていないと、毎年人事担当者が個別に催促して回ることになります。そして担当者が代わった年に、運用が崩れます。評価「制度」なのに、実態は属人的な運用になってしまっているのです。

目標設定から評価、面談、処遇反映までの年間の運用サイクルを示した図
図:制度の年間運用サイクル(例)

面談が、結果通知の場になっている

評価面談が「あなたはBでした」と伝えるだけの場になっている会社は少なくありません。

本人からすれば、決まった結果を聞かされるだけです。納得感は生まれませんし、次に何をすればよいかも分かりません。

面談で伝えるべきは、点数ではなく理由です。どの行動がどの水準に届いていたのか、次の等級に上がるには何が必要なのか。これを話すには、評価者に技術が要ります。制度を作るときに、この技術の習得までを工程に入れておく必要があります。

管理職の時間が確保されていない

評価は、片手間でできる作業ではありません。部下10人を評価し、面談まで行えば、相当な時間がかかります。

その時間を業務時間の中に確保していない会社では、評価は締切前夜の作業になります。前夜に思い出せるのは直近1か月の出来事だけです。半年間の評価が、直前の印象で決まります。

日々の記録を残すしくみと、評価期間中の業務量の調整。この2つを制度と一緒に設計しておく必要があります。

原因4|一度に全社へ広げた

4つ目は、導入の順序です。

制度は、運用してみるまで分からない

どれだけ精緻に設計しても、制度は仮説の域を出ません。運用して初めて、うまくいく部分といかない部分が見えてきます。

私自身、これまで設計した制度で「一度も手直しが要らなかった」ものはありません。想定していなかった職種や業務が出てくる、評価がばらつく、面談が形だけになる。必ず何かが起きます。

にもかかわらず、多くの会社が完成品として全社に公表します。そして初年度に問題が出た時点で、「新しい制度は使えない」という評価が固まります。

試行部門から広げる

まず一部門、あるいは一階層で1サイクル回します。そこで出た問題を直してから、全社に広げます。

この順序にしておくと、うまくいかなかったときの傷が浅く済みます。また、先行して経験した管理職が、展開時に説明役になってくれます。外から来た制度ではなく、社内で試したものとして受け止められます。

移行時には、賃金を下げない、一定期間の猶予を設けるといった経過措置も必要です。ここを詰めずに公表すると、制度そのものへの信頼が最初に失われてしまいます。

自律型人材が育つ4つの柱の構造図
図:自律型人材が育つ4つの柱

今ある制度を、来月から点検する

作り直す前に、現状を確認することをおすすめします。今月から着手できることを3つ挙げます。

  • 等級定義と評価表を並べ、同じ言葉がいくつ出てくるかを数える
  • 年間の運用予定を1枚に書き出し、空欄になる箇所を確認する
  • 昨年度の評価結果と、実際の賞与・昇給額の差を突き合わせる

1つ目でほとんど重ならなければ、原因1が起きています。等級と評価がつながっていないということです。

2つ目で書けない箇所があれば、原因3です。誰がいつ何をするのかが決まっていません。

3つ目で差がほとんどなければ、評価が処遇に届いていないということです。

いずれも、制度を作り直さずに確認できます。そして、ここで見つかった箇所が、最初に手をつける場所になります。

なお、制度の改定を社内だけで進めると、今いる人に合わせた設計に戻りがちです。外部を部分的に使う方法もあります。弊社が実際にどのようにご支援するのかについては、人事制度コンサルティングをご覧ください。運用の定着まで含めた進め方については、コンサルティングの進め方をご覧ください。

まとめ

人事制度が形骸化するのは、制度の出来が悪いからではありません。等級・評価・賃金がつながっていない、評価者が判断できる形になっていない、運用する人の仕事が決まっていない、一度に全社へ広げた。この4つが原因です。

制度は、作った時点では半分です。残りの半分は運用の設計であり、そこまで含めて初めて動き始めます。

自社のしくみがどのようになっているかは、内側からは見えにくいものです。人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4分野について、どこが弱いかを10分で数値にする無料診断をご用意しています。今回の内容は、診断の「人事制度」の項目に対応しています。

ご関心のある方は、ぜひお試しください。

人事制度について、さらに詳しく

本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第3章をもとに再構成したものです。

著者

小松 茂樹(こまつ しげき)

株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜

原因は、社員ではなく環境にあります。自社の環境がどうなっているかは、10分で数値になります。

TEL.
078-600-2761