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人事制度

2026.9.15

中小企業の等級制度の作り方|役割を言葉にする

等級制度を作ったものの、実質的には年次と役職の一覧表になっている。人事のご担当者から、よくお聞きする話です。

原因は、今いる社員に合わせて段階を作っているからです。等級は本来、人ではなく役割に対して設けるものです。役割と自律性の水準で段階を決め、役職と切り離して考えるのが望ましい姿です。この記事では、その4つの手順をご説明します。

8段階あるのに、誰も自分の等級を知らない

社員120名ほどの会社で、等級制度を拝見したことがあります。等級が8段階に分かれ、それぞれに丁寧な定義が書かれていました。

その会社の社員の方に「ご自身は何等級ですか」と伺ったところ、答えられた方は半数もいませんでした。自分が何級なのかを知らないのです。給与明細に等級が書かれています。でも、目に入っていない。等級が実務に影響していないので、まったく意識されていないのが実態でした。

しかし、それは無理もないと思いました。8つの段階の違いが、読んでも分からないのです。例えば、3等級は「担当業務を確実に遂行する」、4等級は「担当業務を的確に遂行する」と記載されています。「確実」と「的確」の差を説明できる人は、おそらく社内にいないでしょう。

段階の数が多いこと自体が悪いわけではありません。ただ、中小企業で8段階も設けると、隣り合う段の違いを書き分けられなくなります。書き分けられない基準は、あってないようなものです。設けても運用されずに終わってしまうことでしょう。

今いる人に合わせると、必ず崩れる

等級制度を作るとき、多くの会社が現在の社員から出発します。ベテランのAさんは上のほう、若手のBさんは下のほう、といった具合です。

作業としては進めやすいのですが、この作り方をすると2つの問題が起きます。

ひとつは、その人が辞めた瞬間に、その等級の意味が分からなくなることです。「Aさんの等級」としか定義されていないためです。

もうひとつは、下から上がってくる人の目標にならないことです。次の段に行くために何ができるようになればよいのかが、書かれていないからです。

等級は、人ではなく役割に対して設けます。 そこに誰がいるかとは切り離して、その段に求める役割と自律性の水準を先に決める。それから、現在の社員を当てはめる。この順序です。

順序を逆にすると、制度は今いる人の配置図になってしまい、等級制度として機能しなくなります。

手順1|段数は、書き分けられる数に絞る

最初に決めるのは段数です。

判断の基準は単純です。隣り合う段の違いを、1文で書き分けられるか。 書き分けられない段は、統合してしまいましょう。

従業員80名から150名程度の会社であれば、4段階から5段階で足りることがほとんどでしょう。新入社員から中堅、管理職までを4つか5つに分ける。これで十分に運用できます。

段数を増やしたくなる理由は、たいてい昇格の機会を増やしたいからです。しかし、違いが説明できない昇格は、社員から見れば年功による自動昇格と変わりません。段階の数を増やすよりも、賃金の幅を各段の中で持たせるほうが、実務では扱いやすくなります。

手順2|各等級の自律性の水準を、1文で書く

段数が決まったら、それぞれに求める自律性の水準を1文で書きます。

自律型人材の育成を目的にするなら、上の段ほど高い自律性が求められる設計にします。たとえば次のような形です。

  • 新入社員:手順を習得しながら不明点を自ら調べて確認する段階
  • 若手社員:業務の目的を理解し、進め方を自分で考えて実行する段階
  • 中堅社員:自ら課題を設定し、解決策を立案して推進する段階
  • 管理職:メンバーの自律性を引き出し、変化に対応できる環境を自らつくる段階
等級が上がるにつれて求められる自律性の水準が高くなる階段構造を示した図
図:等級と自律性の対応

書くときの点検基準は、第三者が見て確認できるかどうかです。「確実に遂行する」は確認できません。「不明点を自ら調べて確認する」であれば確認できます。

ここで使う言葉は、求める人材像から用います。人材像を作らずに等級だけを設計すると、その会社らしさのない一般的な定義になり、形骸化してしまいます。人材像の作り方については、求める人材像の作り方|抽象的な言葉で終わらせないためにをご覧ください。

手順3|等級と役職を、切り離す

次に、等級と役職の関係を整理します。

多くの中小企業では、等級と役職が一体になっています。「5等級=課長」というような形です。この設計だと、課長のポストが空かない限り、誰も上に上がれません。

そこで、等級と役職を分離します。等級は役割と能力の段階、役職は組織上の任命です。同じ等級に、課長の人とそうでない人が並んでいて構いません。

この分離には、実務上の利点が2つあります。

ひとつは、若手の抜擢がしやすくなることです。等級が上がっても役職が伴わないなら、周囲の反発も小さくなります。

もうひとつは、管理職に向かない人の行き先ができることです。マネジメントは現場業務の延長ではなく、別の役割であり別の技術です。技術で貢献し続ける道を残しておけば、優秀な担当者を無理に管理職にせずに済みます。

近年は、管理職コースと専門職コースを分ける会社も増えています。ただし、専門職コースを作っただけで運用しないと、管理職になれなかった人の受け皿として扱われます。そうなると誰も選びません。両コースの処遇をできる限り同等にできるかどうかを、設計の段階で決めておく必要があります。

手順4|現在の社員を仮に当てはめ、ずれを見る

ここまでできたら、現在の社員を各等級に仮当てはめします。

このとき、多くの会社でズレが出ます。長く在籍しているのに定義上は下の段に留まる方、若いのに上の段の要件を満たしている方。

ズレが出ること自体は問題ではありません。むしろ、ズレがまったく出ないなら、今いる人に合わせて作ってしまった可能性があります。

重要なのは、ズレをどう扱うかです。移行時に賃金を下げない、一定期間の猶予を設ける、といった経過措置を先に決めておきます。ここを詰めずに公表すると、制度そのものへの信頼が最初に失われてしまいます。体の良い賃下げだと思われてしまったら、反発を招くだけです。

そして、この段階まで来たら評価項目に接続します。等級ごとの定義から重要な語を抜き出し、評価項目にする。人材像・等級・評価が一本の線でつながっていることが、制度がきちんと運用される前提条件になります。評価基準が形容詞のままだと5段階の判断ができないという問題については、5段階評価で全員が3に集まる会社の共通点をご覧ください。

なお、自社の4分野がどうなっているかは、10分の無料診断で確認できます。ぜひ確かめてみてください。

自律型人材が育つ4つの柱の構造図
図:自律型人材が育つ4つの柱

今週できるのは、手順1の点検です

4つの手順を進めるには、数か月を要します。まずは、今週から着手できることを3つ挙げます。

  • 現行の等級定義を並べ、隣り合う段の違いを1文で書けるか試す
  • 社員10人に「ご自身は何等級ですか」と聞き、答えられる人数を数える
  • 等級と役職が一致している人と、していない人の数を集計する

1つ目で書けない段があれば、そこは統合の候補です。

2つ目で半数を切ったら、制度が社員に届いていないということです。これは経営に持っていける事実になります。「等級制度が形骸化しています」という相談は動きませんが、「10人中4人しか自分の等級を答えられませんでした」という報告は、きっと次につながります。

3つ目で全員が一致していれば、等級と役職が分離されていないということです。ポストが空くまで誰も上がれない構造になっていないかどうかを、確認してみてください。

なお、等級から賃金まで一体で設計する場合、社内だけで進めると「今いる人に合わせた定義」に戻りがちです。外部を部分的に使う方法もあります。弊社が実際にどのようにご支援させていただくかについては、人事制度コンサルティングをご覧ください。進め方の全体像については、コンサルティングの進め方をご覧ください。

まとめ

等級制度が機能しないのは、今いる社員に合わせて段階を設計しているからです。書き分けられる数まで段数を絞り、各段の自律性の水準を1文で書き、等級と役職を切り離す。そのうえで現在の社員を当てはめ、ズレの扱いを決める。この順序で進めます。

自社の人事制度がどうなっているかは、内側からは見えにくいものです。人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4分野について、どこが弱いかを10分で数値にする無料診断をご用意しています。今回の内容は、診断の「人事制度」の項目に対応しています。

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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第3章をもとに再構成したものです。

著者

小松 茂樹(こまつ しげき)

株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜

原因は、社員ではなく環境にあります。自社の環境がどうなっているかは、10分で数値になります。

TEL.
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