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2021.6.14
10都道府県に発令されている緊急事態宣言が、6月20日まで延長されました。引き続き、飲食店に対して時短営業や酒類の提供禁止が要請されていますが、延長段階に突入してからは要請に応じない店が増えてきているようです。
私が実際に目にする範囲でも、お酒の提供をする店が散見されてきました。お酒を提供する店としない店が同じ街中に混在している状態であり、当然ながらお酒を出している店が賑わっています。また、店内で飲めないということもあってか、路上での「立ち飲み」も増えているように見受けられます。
正直なところ、こうなることは予想していたので「やっぱりな」という感想です。
人間には欲求があります。何かを禁止されればされるほど、その欲求を満たしたいというエネルギーが高くなります。例えて言うなら、「見てはダメと言われると覗きたくなる」といった心理です。これが人間の欲求の原則だと思います。
欲求を満たす行動を禁止するアプローチを、イソップ寓話の「北風と太陽」になぞらえて「北風戦略」と呼ぶとします。北風戦略をとると、かえってその欲求が増幅されて一層強くなります。行動を抑制したいのであれば、単に禁止するのではなく、行動欲求を満たす別のアプローチに誘導する「太陽戦略」を同時に進めるのが有効です。
これは決して、飲食店に対して「休業補償をしろ」という話ではありません。むしろ、後述する理由から考えると、場合によっては休業補償は逆効果に働く可能性があります。確かに休業補償をすれば、休業要請に応じる飲食店は増えるかもしれません。しかし、人々の「お酒を飲んで談笑したい」というニーズは一層満たされなくなり、路上立ち飲みやホームパーティー(自宅飲み)を増加させる結果につながります。
緊急事態宣言の目的は感染拡大を防止することであり、そのために密集・密閉・密接の3密を避けることであるはずです。であれば、お酒そのものに直接的な原因帰属をするのは本来お門違いであり、3密を避けながらニーズを満たす別の手段を提示し、そこに誘導することの方が問題解決に貢献しそうな気がします。
例えば、屋外にテーブル間隔を広くとった飲食スペース(要するに広々としたビアガーデン)を設けるのも有効かもしれません。あるいは、換気システムを導入したり、座席使用率を半分にしたり、着席を4人以下などに限定したり、アクリル板を設置したりするなど、可能な限り集団感染を広げない対策を講じた上で「飲む環境」を設け、そこに誘導する方が効果的ではないかと思うのです。(素人意見なので、医学を専門とされている方から見て不適切であれば、お詫びして訂正します)
昨年の初回緊急事態宣言の時には、コロナ禍を戦時に例えて「耐え忍ぶべき」とする風潮も見られ、また未知のコロナウィルスに対する恐怖もあって、今よりも「自粛ムード」はずっと高かったように思います。
しかし、緊急事態宣言による人流抑制は短期決戦だからこそ人々が受け入れられる話であり、延長につぐ延長でこれだけ長期化すると当然形骸化して軽視されることになります。そこにGoToキャンペーンやオリンピック、政治家や官僚の不祥事まで重なり、方針に一貫性が感じられない出来事が続けば、「真に受けない」人々が増えるのも、仕方がないと言えます。
人に会いたい、人と話したい、外に出たい、遠いところに行きたいというのは、社会性と刺激を求める人間の根源的な欲求であり、それを北風戦略だけでコントロールするのは困難です。欲求はエネルギーであり、不自然に抑圧されると増幅されます。蓄積すれば爆発して、不適切な方向へと人々を駆り立てることになります。
それでも、他者に危害を加えるなどの行為は人命や尊厳を損なう結果につながるので、ルール(法律)で禁止して、その強制力を高めるために罰則を設けて遵守を迫ります。これが人々に受け入れられるのは、他者への危害を禁止することが人々の倫理観と合致しているからです。ルールを設けることに理解と納得が得られるから受け入れられるわけであり、理解と納得が得られないことがルール化されれば、当然ルールは形骸化し、運用は破綻します。
今回、緊急事態宣言による要請(=ルール)が人々に受け入れられ難いのは、要請に従うことによって被る損失、コロナウィルスの影響(具体的には死傷リスク)、政策の一貫性のなさに整合性が取れず、理解と納得が得られていないからだと考えます。この状況下でルールが遵守されるようになるためには、抑圧された欲求を、より低リスクで安全に充足させる環境や方法を提供する「太陽戦略」を同時に運用する必要があります。北風(ムチ)は太陽(アメ)とセットで使うから効果が出るのです。ムチだけ打たれ続けていれば、当然、その状況から逃亡したくなるものです。
あるクライアント企業様の話ですが、全社(全館)禁煙にした結果、外にタバコを吸いに行く人が増えてしまい、離席時間が増えて生産性が低下した現象が見られたようです。それどころか、副流煙を街に撒き散らすという外部不経済(当事者の外部に不利益をもたらすこと)を発生させてしまっています。結局ところ、これは問題を外部に転嫁させているだけだと言えます。しかも、一層状況を悪くしてしまっています。それだったら、社内に喫煙所を設けている方が、就労面でも近隣住民への影響の面でも良かったという結果になります。
人の欲求は外圧によって禁止されると、それに抗って実現しようとする欲求が一層強くなります。喫煙を禁止する(北風)のではなく、公式な喫煙場所を設ける(太陽)方が、当事者にとっても第三者にとってもハッピーになるのではないでしょうか。(決して喫煙を推奨しているわけではありませんが)
働き方改革が提唱されて以降、業務効率化や時間管理に関する研修オーダーがかなり増えました。特に、2019年の労働基準法改正以降はその傾向が顕著になりました。月24時間・年360時間以上の時間外労働が発生した場合、企業に罰則が課されます。時間外労働の抑制は経営課題の重要項目に躍り出たと言えます。
法律によって時間外労働に罰則を設けるのは「北風」アプローチです。とはいえ、行政が企業の内部に介入できない以上、現実的に北風戦略しか取りようがない面は否めません。しかし、少なくとも企業側は太陽戦略を考える必要があります。行政からの指示を単純に伝言ゲームで社内ルールとして、時間外労働の禁止を唱えるだけでは、問題は根本的には何も解決しません。申告漏れのサービス残業が増えるだけです。
一部の例外を除いては、好き好んで時間外労働をしているわけではありません。仕事が終わらないからやっているだけです。時間外労働に陥ってしまうのは、仕事の停滞によって顧客や会社に迷惑をかけたり、上司に怒られたりする状況を避けるためです。誰にも迷惑かけず、誰にも怒られないだけの十分な仕事が時間内に終えられば、好んで時間外労働をする人はいないでしょう。時間外労働を禁止する(北風)のではなく、時間外労働を発生させない(太陽)ようにすることの方が、はるかに効果的であり、有益です。
時間外労働が発生する原因は、総じて言えば下記の2つしかありません。
ただこれだけです。
業務量が多い問題については、やることを減らしていくしかありません。仕事の目的、タスクの重要度を吟味していけば、個人レベルでできることも十分にあります。優先順位設定の基準さえ明確にできれば、すぐにでも目に見える効果をあげることが可能です。
しかし、実際には担当者レベルでは意思決定ができないことも数多くあります。経営トップやマネジメント層が積極的に業務の「断捨離」を行うことが望ましいです。特に、形骸化・形式化した「仕事のための仕事」「会議のための会議」を「やらなくて良い」とトップダウンで指示すれば、一般職層にとってこの上ない「太陽」になります。
仕事の進め方が悪い問題については、職務遂行能力を向上させることが必要です。業務効率化研修や時間管理研修で、仕事の「捨て方」や優先順位のつけ方、段取りやスケジュールの組み方をお伝えすると、「もっと早く知りたかった」というお声をしばしばいただきます。
それはそれでありがたいことではあるのですが、私がお伝えするまでもないくらいに、時間管理の基本が「世の中の常識」レベルまで広く浸透して欲しいと切に願います。時間に仕事を割り当てる、目的のない仕事をしない、逆算思考で考える。こうした考え方が世の中の「普通」になれば、停滞が続く日本経済の付加価値生産性も、まだまだ伸び代があるのではないかと思います。知識やスキル、ツールを提供することも、見方によっては「太陽」になると言えるでしょう。
人は本能的に「痛みを避けて、快楽を追求する」という欲求を持ちます。外圧的に何かを禁止する行為そのものが、当人にとっては自己決定権や行動の自由を制限される「痛み」になります。それを避けようとした結果、望ましくない行動に出る場合があるのは、むしろ自然なことです。痛みを避けた後に「向かうべき先」を定める必要があります。そして、向かうべき先が「快楽」に映るように演出し、そこに誘導していく取り組みがあってはじめて「痛みを避けて」「快楽を追求する」がともに成立します。2つで1セットなのです。
秩序を保つ上で、時には北風(痛み)が必要になる場面はあります。しかし、北風は太陽(快楽)とセットにすることによって、有効に作用します。コロナ対応などの社会全体のレベルはもちろんのこと、組織や小集団レベルの話であっても「禁止して終わり」で済むほど、人の欲求に基づく問題解決は容易ではありません。望ましい状況を意図的に実現するためには、北風と太陽をセットで考える発想が必要であると考えます。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。