若い世代の考え方や価値観に耳を傾けよう

本日、ある中小企業の社長にお目にかかり、離職防止や職場コミュニケーションなどについてお話を交わしてきました。こちらの企業様に限らず、世代間のコミュニケーションを改善することが重要な経営課題になるケースが数多く見受けられます。

特に、就職氷河期世代の新卒採用を控えていた組織だと、30~40代の人員が不足しているため、50代以上のベテランと20代の若手のみで職場が構成される、いびつな年齢構造になることも珍しくありません。そうすると、基本的な考え方や価値観、コミュニケーションの取り方に大きなギャップがあり、お互いに苦手意識を感じてしまい、関係構築ができなくなる場面も散見されます。

もちろん個人差はありますので、年代の壁を超えて良好な関係を築き、コミュニケーションを円滑にしている方もいらっしゃるでしょう。とはいえ、どこの企業や団体に伺ってもよく耳にする話なので、こういう状況は数多くあるのではないかと思います。

それぞれの世代ごとに考え方や価値観は異なりますし、どれが優れていて、どれが劣っているということもありません。歩んできた人生において、経済・社会情勢やテクノロジーが異なるので、考え方や価値観が異なるのは言わば当然なことです。当然、お互いを尊重するのが大切ではありますが、企業としての永続と発展を望むのであれば、年配者が若い世代に関心を持ち、耳を傾けることが特に大事ではないかと考えます。

世代の分類

一般的に、日本においては下記のような世代分類をされることが多いです。

バブル世代(1965-69年 生まれ)

  • バブル景気に沸いた企業の大量採用期に社会人に
  • 長時間労働に疑問を持たず、接待会食、ゴルフ、麻雀など勤務時間外の仕事の付合いも当然視されていた

氷河期世代(1971-82年 生まれ)

  • バブル経済がはじけ、長期の景気後退局面へ突入
  • 企業が求人を絞ったため正規社員として就職できず、非正規雇用の低賃金で30-40代となり社会的孤立者も

ミレニアル世代(1981-95年 生まれ)

  • 高いデジタルスキルを有し、政治観、キャリア観、商品購買プロセスなどが目新しかったため、かつては多くのマーケターがこの層を狙った

Z世代(1996-2012年 生まれ)

  • デジタルネイティブ、社会問題への関心が高い
  • 多様性を重視し、他者に寛容
  • 昨今のトレンドを作り出す中心人物

経済とテクノロジーが生み出す「価値観の違い」

必ずしもこの特徴が当てはまるものではなく、当然個人差がありますし、私も世代を一括りで語ることにやや抵抗はあります。発想が柔軟でチャレンジ精神に富んだ年配者もいますし、保守的で消極的な若者もいます。とはいえ、世代ごとに過ごしてきた社会環境が異なることは否めません、誰しもがそこから一定程度の影響は受けます。大きな塊としての「世代」を論じるときに、この分類が便利であることは確かです。

世代ごとに考え方や価値観が異なるのには、大きく2つの理由があると考えます。一つは「経済・社会状況」、もう一つは「テクノロジー」です。

経済・社会状況について言えば、バブル世代や、その上の団塊世代の方々は、日本が好景気に沸いていた頃を実際に体験しています。好景気のうちに社会人になったので、少なからずその恩恵を受けて、経済成長によって暮らしぶりが良くなることを肌で感じていることでしょう。

しかし、私のような就職氷河期世代やミレニアル世代は、小中学生や高校生の頃にバブル経済の華やかさを目にしつつも、自分が社会人になる頃にはすでにバブルが崩壊してしまっており、失われた30年の中でキャリアを積んでいきます。長い間景気が低迷し続け、一向に明ける見込みもなく、それどころか少子高齢化によって消費増税と社会保障費の増額で、働いても働いても暮らしは豊かにならない(人によっては貧しくなる)ため、怒りや嘆き、あきらめを抱いていると言えるでしょう。

さらにZ世代になると、生まれた時にはすでにバブルが崩壊しています。日本が好景気だった頃、経済大国だった頃を実際に生きておらず、歴史として教わる「過去の出来事」として捉えています。親がお金に苦労する様子を見て育ってきたため、将来を過度に楽観視することなく、超現実的な考え方をするようになります。そして「足るを知る」が如く、低迷する経済、衰退する国力の中でいかにして自分の生活を楽しみ、充実させていくかを考えるのです。しばしば年配者が「いまの若い世代は欲がない」と口にすることがありますが、欲がないわけではありません。

実際に新入社員研修や若手研修などで、Z世代の方々ともお話をさせていただくことがあります。それぞれに欲しいもの、やりたいことなど、欲はお持ちです。しかし、前提が異なるのです。これから国の経済が良くなるとか、懸命に働いたら給料が大きく増えるといった夢物語を見ていない方が多いです。必要以上に浪費することなく、限られた資源(お金)の中で、いかにして自分の欲求を満たしていくか。それを現実的に考えているため、「昔の感覚で言う欲」がないように映るのは当然のことなのです。

また、テクノロジーの発展も考え方や価値観に大きな影響を及ぼします。例えば私(1978年生まれ)の場合、幼少期にはまだ黒電話(アナログ電話)を目にすることがありましたし、小中学生の頃には電話といえば家の固定電話でした。高校生の時にポケベル、大学生の頃にPHS、社会人になる前くらいに3Gの携帯電話を手にするようになり、30歳を過ぎてからスマートフォンを使い始めます。

はじめてパソコンを触ったのは大学生の頃でした。父がパソコンを買ってくれたので面白くて使っていましたが、パソコンを持っていない同世代も多くいましたし、社会人になる頃にみんな誰しもがWord、Excel、PowerPointを使える状況ではなかったと思います。また、私より上の世代では職場でワープロを使用されていた方もいるかと思います。また、通信に関してもかつては郵送、FAXが主流で、一般的に電子メールが使われるようになったのは2000年以降の話です。

ところが、Z世代の場合、学生時代からスマートフォンを使い始めています。若い世代では、はじめて持った携帯電話がスマホという方も珍しくなく、(私は直接お目にかかったことはないですが)パソコンを使ったことがなく、スマホですべてを完結するという方もいるそうです。何か調べ物をしたり、本を読んだり、買い物をしたり、他人とコミュニケーションをとったりするのは、すべてスマホ利用が前提なのです。その即時性やスピード感、手軽さは、他の世代とは一線を画します。対人関係のあり方、コミュニケーションの取り方が異なるのは言わば当然のことなのです。

若い世代の価値観に耳を傾け、理解を示すことが必要

繰り返しになりますが、どの世代が優れていて、どの世代が劣っているということはありません。ただ、違うだけなのです。しかし、これからの世の中を牽引し、考え方や価値観の主流になるのは、間違いなく若い世代なのです。どう考えても、年配者の価値観や考え方が世の中の基準に返り咲くということはありえません。

なぜなら、経済が大きく成長することも、テクノロジーが退化することも考えられないからです。生産性が上がる余地はもちろんありますが、経済規模のベースはあくまでも人口です。それも現役世代となる生産年齢人口の与える影響が大きく、今後少子高齢化と人口減少が避けられない日本においては、今から経済大国に復活するというシナリオは描きようがないのです。であれば、経済縮小が前提となっている、いまの若い世代の価値観の方に寄っていくと考えるのが自然です。

もちろん、経済が低迷していくことを前提にするような悲観シナリオの中で生きていても楽しくないので、「一人あたりGDP」を上げていくことで、個人レベルの豊かさを上げていくことには私も挑戦していきたいです。しかし、高度経済成長とバブル経済はどうやっても訪れません。それらは人口ボーナス期だったからこそ実現できたのです。

また、テクノロジーは今後もますます進化していきます。デジタルとオンラインが世の中の様々な物を変えていきます。固定電話と郵便でやっていたことの価値観に戻ることはあり得ません。今後、新しいテクノロジーをベースにした商品やサービスが世の中を作っていきます。それができない企業は世の中に価値提供ができなくなるといっても過言ではないかもしれません。当然、その前提になるのは「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代の考え方、価値観、感覚です。

以前、リスキリングについての記事を書きましたが、少子高齢化で職業人生が長期化する中においては、デジタル時代に合わせて自分のスキルをアップデートする必要があります。

リスキリング 〜デジタル × 定年70歳時代を生き抜くために不可欠な自己変革〜

しかし、ただスキルを身につけるというだけではなく、そのスキルを発揮するための前提となる意識や考え方を身につけなければ、うまく仕事に活かすことはできません。そのためには、デジタルネイティブである若い世代が、どのような考え方や価値観、感覚を持っているのかを知ろうとする姿勢が必要です。自分の世代が過ごしてきた社会・経済的な環境と、それによって培われた価値観を認めた上で、そこに若い世代の感覚を取り入れようとしていくことで、時代に適応した仕事をしていけるのではないかと私は考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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