デジタル時代のビジネスパーソンに求められるスキル「課題設定力」

先日、ある企業で半年間かけて行ってきた若手社員研修のプロジェクトが終了しました。テーマは自律型人材育成。「自ら考えて、自ら行動する」マインドを養う、私の定番テーマのうちの一つです。

計3回の集合研修の間に各3ヶ月のインターバルを設けて、目標達成に向けた実践期間とする。ここまではよくあるパターンではあるのですが、今回の企画が特徴的だったのは、参加者との個別面談を2回行ったことです。

参加人数が少ないからこそ実現できた企画だとも言えますが、一人ひとりの背景や経歴、特徴を踏まえて課題設定そのものから伴走するこの形態は、単に事前課題として指示を出して結果を待つという通常パターンよりもはるかに実践的で効果的であったと言えます。

なぜその課題、目標にしたのかという背景から理解できているので、成果報告の際のフィードバックがかなり具体的になりますし、助言が成果につながったという報告をいただくのは純粋に嬉しいです。

将来的なキャリアビジョンを描き、そこから逆算して自分に必要な課題を定め、課題解決に向けた目標を定めて具体的な行動に移す。これは業種・業態・職種を問わず、これからの時代に働くすべての方々に欠かせないスキルであると私は考えます。

今回は、なぜ課題設定力がこれからの時代に必要なスキルになるのかについてお話しいたします。

課題設定力が重要な時代になる

コンピユータやロボットによって業務が効率化・自動化され、ビジネスモデルや業務プロセスが従来とは大きく異なるものに変容していく。こうした現代の潮流をDX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)と呼びます。

作業手順や判断基準が明確に言語化できて、決められたことを決められた通りに実行すれば期待される成果が得られるような定型的な作業は、DXが進むにつれて次第にコンピュータやロボットに置き変わっていくことが見込まれています。

定型的な作業を機械が行うようになった時、人間が行うべき仕事はどんなものになるのでしょうか。大きく3つの性質に分かれると私は考えています。

  1. 人の感情や感性に寄り添う仕事
  2. 合理的な判断が必ずしも正解ではない状況での意思決定の仕事
  3. 仕事そのものを作り出し、コンピュータに行ってもらう作業を考える仕事

どれだけ性能が優れたとしても、コンピュータはあくまでも計算機です。数学と論理に基づくアルゴリズムによって動くコンピュータでは、感情や感覚、価値観といった必ずしも合理性が正しさにつながらない「人間心理の複雑さ」に対処できないものがあります。そのため、1や2のような仕事は、まさにコンピュータにはできない、人間だからこそできる仕事として残り、むしろ一層重宝されていくことが考えられます。

とはいえ、1の仕事を担う職種は限られ、2の仕事を担う職位は限られるという側面もあります。多くの職種や立場の方にこれから求められていく仕事は、仕事そのものを作り出したり、コンピュータが行う仕事の作業内容や手順を考えたり操作したりする3の仕事となります。

顧客へ価値を提供し、事業を継続し、発展させていくためには、何をしなければならないのか。それを実現していくために、コンピュータやロボットにどんなことをやってもらえば良いのか。それを自らの意思で考えること、つまり課題を設定することがこの先、5年、10年を見据えた時にビジネスパーソンに求められる役割になるのです。

自分で考えて、自分で決め、自分で成し遂げる

当事者意識が高く、仕事の目的や本質を理解して、主体的・積極的に仕事をしている方は課題設定のスキルは必然的に高くなります。目標達成に向けて、何が必要なのか、何が不足しているのかを常に考えて、たえず試行と軌道修正を行いながら仕事を進めていくので、日々小さな課題設定と課題解決を繰り返しているようなものだと言えます。

ところが、当事者意識や仕事への意欲が低い方、仕事に経済的な報酬以上の価値を見出せていない方、現状の仕事に満足してしまっている方など、「指示されたことは忠実に行うが、それ以上のことを自らしない」という仕事の進め方をしている方の場合、自分自身で課題を設定するスキルが不十分である可能性が高くなります。また、必ずしも意欲が低いわけではなくても、いま自分が行っている仕事よりも上位の階層や次元がイメージできない方は、同様に「いま以上」のことを自ら行っていくのが困難になります。

こうした方々が、自ら課題を設定して実行する「自律型人材」として活躍できるようになるためには、一定の訓練が必要です。仕事の意味や目的、自分の果たすべき役割や求められている期待、外部環境の変化や動向などを複合的に考えて「いま、何をするべきなのか」を自ら考える。そして、それを解決するための仮説を立て、計画を描き、計画に基づいて実行に移す。この経験を積み重ねることによって、本質を捉える力、周囲を観察する力、問いを立てる力を磨き、課題設定と実行、自己管理のスキルを磨いてくことができるのです。

達成体験を積み重ねることが自己肯定感、自己効力感の醸成につながります。自分で考えて、自分で決め、自分で成し遂げるという一連の体験が有能感を作り出し、これが未知の物事や難易度の高いことへ挑戦するための原動力となります。必要なのは達成体験の量を積むこと。最初は必ずしも高い目標や難易度の高い課題に挑む必要はなく、小さなことからはじめていきながら有能感を高めて、徐々に課題をハードにしていくことが有効です。

達成体験を重ね、有能感に満ちた人たちが増えていくことが、過去の成功体験や固定観念にとらわれないイノベーションを生み、失われた30年によって作られた社会の閉塞感を打ち破ることにつながるだろうと、私は信じています。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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