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人材像

2026.10.28

階層別の役割定義の手順|等級ごとの期待を明確に伝える

求める人材像は、会社に1つあれば足ります。ただし、その1文をそのまま全階層に配っても、誰も自分のこととして受け取りません。

新入社員と課長に「自ら考えて行動する」と同じ言葉を渡したとき、2人が思い浮かべる行動はまったく違います。違ってよいのですが、それを本人任せにすると、期待は伝わらないままです。この記事では、1つの人材像を等級ごとの期待に書き分ける手順を、記述例とともに整理します。

同じ言葉を配っても、自分のこととして読まれない

ある会社で、等級ごとの役割定義を見せていただいたことがあります。4つの等級すべてに「主体的に」という言葉が入っていました。違いは語尾だけでした。

これは珍しいことではありません。人材像を作る作業と、それを等級に割り付ける作業は、別の仕事だからです。前者が終わった達成感のまま後者に入ると、どうしても同じ言葉が並びます。

受け取る側から見ると、こうなります。3等級の社員が自分の期待役割を読み、次に4等級の欄を読む。書いてあることがほとんど同じであれば、昇格して何が変わるのかが分かりません。分からなければ、昇格は給与の話にしかなりません。

原因は社員の理解力ではなく、書き方にあります。 そして、書き方を決められるのは会社の側だけです。

なお、全社で1つの人材像をまだ作っていない場合は、この記事より先にそちらが必要です。手順は求める人材像の作り方|組織・人事コンサル10年超の言語化手順をご覧ください。

手順1|等級の枠と、違いが出る3つの観点を決める

最初にやることは、新しく何かを書くことではありません。すでにある等級の枠を確認することです。

等級がいくつあるか。それぞれに名前が付いているか。役職と等級が紐づいているか、分離しているか。ここが曖昧なまま役割定義に入ると、書いている途中で枠組みを直すことになります。等級の枠自体がこれからという場合は、中小企業の等級制度の作り方|人事コンサル10年超の設計手順が先です。

枠を確認したら、次に「何が変わると等級が上がるのか」の観点を決めます。私が設計の現場で使っているのは、次の3つです。

  • 範囲:どこまでを自分の仕事と見るか(自分の担当/チーム/部門)
  • 判断:どこまで自分で決めてよいか(手順どおり/進め方を決める/方針を決める)
  • 人への関与:他者にどう関わるか(自分の仕事に集中/後輩に教える/育成に責任を持つ)

ここで大事なのは、等級の差を難易度で出さないことです。「より高度な業務を行う」と書いても、何が高度なのかは人によって違います。範囲と判断なら、本人にも上司にも同じように見えます。

手順2|等級ごとに、行動として書く

観点が決まったら、等級ごとに1文ずつ書きます。拙著に載せた記述例を、短くして引きます。

新入社員レベル:定められた手順を理解して業務を進めながら、疑問や改善の気づきを自分から発信する。

若手社員レベル:指示の意図を汲んだうえで、業務の進め方を自分で考えて実行し、課題の解決策を提案する。

中堅社員レベル:担当領域の課題を自ら設定して解決を進め、後輩への働きかけを通じてチームの成果に貢献する。

管理職レベル:組織の方向性を解釈してチームの方針を決め、メンバーの自律性を引き出す環境をつくる。

4つを並べて読むと、変わっているものが見えます。自分の担当からチーム、組織へと範囲が広がり、手順を守る段階から方針を決める段階へと判断が移り、自分の仕事から他者の育成へと関与が増えています。

同じ「自ら考えて行動する」でも、求める行動はこれだけ違います。この違いを文章にしておくことが、役割定義の目的です。

1つの人材像が等級ごとに別の行動になることを示した図
図:同じ人材像の、等級ごとの中身

手順3|書いた後に、2つのことを確認する

書き上がったら、公開する前に2つ確認します。どちらも、見落とすと運用に入ってから効いてきます。

1つ目は、形容詞だけで書いていないかです。

「積極的に」「主体的に」「前向きに」。これらは、程度を表しているだけで、行動を指していません。評価のときに、積極的だったかどうかを上司が判断することになります。判断が分かれれば、評価は揺れます。動詞と目的語の形に直してください。「課題を提案する」「進め方を決める」なら、やったかどうかで確認できます。

2つ目は、等級の間で語尾しか変わっていないかです。

「提案できる」と「提案する」。「意識する」と「実践する」。この差だけで等級を分けている定義を、よく見かけます。昇格した本人に「何が変わりましたか」と聞かれたときに、説明できません。範囲か判断か関与のいずれかが変わっているか、1組ずつ見比べてください。

ここまで整えた役割定義は、そのまま評価項目のもとになります。評価の5段階をどう記述するかについては、人事評価の中心化傾向を防ぐ|全員3から抜け出す基準づくりをご覧ください。

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手順4|本人に渡して、言葉を直す

最後の手順は、完成させる前に渡すことです。

該当する等級の社員数名に読んでもらい、「自分の仕事のことだと思えるか」だけを聞きます。賛成か反対かは聞きません。自分のこととして読めるかどうかだけです。

ここで必ず出てくるのが、現場の言葉とのずれです。設計側が「顧客接点」と書いたところを、現場は「お客様のところへ行く仕事」と呼んでいる。どちらが正しいという話ではなく、読まれるほうに合わせます。役割定義は、社内の人が読む文書だからです。

正直に申し上げると、この工程を飛ばしても、文書としては完成します。実際、飛ばして作られた役割定義を何度も見てきました。見分け方は簡単で、現場の人が一度も声に出して読んだことのない言葉が並んでいます。そうした文書は、引き出しの中で止まります。

等級と職種の組み合わせが多く、自社だけで書き切るのが難しい場合は、外部を部分的に使う方法もあります。弊社がどの工程をお手伝いし、どこから社内に渡すのかについては、人事制度コンサルティングをご覧ください。

まとめ|1等級分から始める

全等級を一度に書こうとすると、どの等級も薄くなります。おすすめは、最も人数の多い等級を1つ選び、そこだけ書いてみることです。

1つ書けると、その上と下の等級は書きやすくなります。範囲と判断と関与を、1段ずつずらせばよいからです。ゼロから4本書くより、はるかに速く進みます。

求める人材像は1つで足ります。配るのは、その言葉ではなく、その等級での行動です。

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著者

小松 茂樹(こまつ しげき)

株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』

原因は、社員ではなく環境にあります。自社の環境がどうなっているかは、10分で数値になります。

TEL.
078-600-2761