人事制度
2026.10.13

評価基準を書こうとして、何から手をつければよいか分からない。人事のご担当の方から、よくお聞きする話です。
書き始める場所は決まっています。5ではなく、3からです。その等級に期待する標準を先に決めれば、上下の幅が決まります。この記事では、1項目から試せる4つの手順をご説明します。
評価基準を作る場面で、最初に出てくるのはたいてい5の定義です。
「5は期待を大きく超えた人」「5は模範となる行動をした人」。言葉としては間違っていませんが、これでは評価者は判断できません。どこからが「大きく超えた」なのかが分からないからです。
結果として、評価者は説明の要らない点数を選びます。全員が3に集まる中心化傾向は、こうして起きます。この構造については、人事評価の中心化傾向を防ぐ|全員3から抜け出す基準づくりをご覧ください。

5から書けない理由は単純です。5は「標準を超えた状態」ですが、その標準が決まっていないからです。
基準になるのは3です。3とは、その等級の社員に期待している水準そのものを指します。言い換えれば、「この等級なら、これができて当たり前」という線です。
この線が引かれて初めて、それを超えた状態が5になり、届いていない状態が1になります。順序を逆にすると、どの点数も相対的な印象で決まることになります。

書き始める前に、何を評価するかを決めます。
評価項目は、新しく考えるものではありません。等級定義の中から、重要な語を抜き出して作ります。
たとえば中堅社員の等級に「自ら課題を設定し、解決策を立案・推進する」と書かれているなら、そこから「課題設定」「解決策の立案」「周囲への働きかけ」といった項目が出てきます。
等級に書かれていないことを評価項目にしてはいけません。社員から見れば、昇格の条件と評価の対象が食い違うことになります。等級・評価・人材像が一本の線でつながっていることが、制度が運用される条件です。

項目数は、1等級あたり5つから8つで足ります。多くすると、評価者が1項目あたりに割ける時間がなくなり、どの項目も印象で付けることになります。
等級定義そのものがまだない場合は、先にそちらを作ってください。進め方については、中小企業の等級制度の作り方|人事コンサル10年超の設計手順をご覧ください。

項目が決まったら、1項目を選んで3から書きます。
書くのは、その等級の社員が通常の状態でできていてほしい行動です。がんばれば届く水準ではなく、「この等級なら、これができて当たり前」という線を引きます。
ここで迷ったら、実際にその等級にいる社員を3人思い浮かべてください。その3人のうち、真ん中の人ができていることが3です。
書くときの基準は、第三者が見て確認できるかどうかです。
「主体性を持って業務に取り組んでいる」は確認できません。何を見れば確認したことになるのかが分からないからです。
「指示された作業の前後の工程を確認してから着手している」であれば確認できます。確認したかどうかは、本人にも上司にも分かります。
この点検を通らない記述は、書き直すか外します。
3が書けたら、その上下を書きます。
5は、3の水準を超えて、周囲に影響を与えている状態です。単に「よくできている」ではなく、その人の行動が他の人の動き方を変えているかどうかが目安になります。
1は、求められている行動が見られない状態です。能力の有無ではなく、行動の有無で書きます。「能力が低い」と書くと、評価ではなく人物評になります。
4と2は、個別に書かなくて構いません。5と3の中間、3と1の中間として運用します。
5段階すべてを書き分けようとすると、作業量が4倍になるうえ、4と2の記述がどうしても曖昧になります。3・5・1の3点が決まっていれば、評価者は判断できます。
書き終えたら、すぐに全社へ展開しないでください。
実在する社員3人を選び、その項目だけで評価してみます。人事のご担当者が付けてみて、次に直属の上司にも付けてもらいます。
ここで3つのことが分かります。
この試し書きは、1項目でも相当な気づきがあります。全項目を書き上げてから検証すると、やり直しの量が膨大になります。
制度が運用されない原因の全体像については、人事制度の形骸化を防ぐ|作って終わりにしない運用の型をご覧ください。

全項目を書き換える必要はありません。今週から着手できることを3つ挙げます。
1つ目で手が止まれば、それがそのまま現場の評価者の状態です。人事のご担当者が書けないものを、管理職が判断できるはずがありません。
2つ目でずれていたら、3の水準が高すぎるか低すぎます。実在の社員に当てて調整するのが、最も早い方法です。
3つ目は、経営に持っていける材料になります。「評価がぶれています」という相談は動きませんが、「同じ社員に、私は4、上司は2を付けました」という報告は動きます。
なお、等級から評価まで一体で設計し直す場合、社内だけで進めると今いる人に合わせた基準に寄りがちです。弊社がどう関わっているかについては人事制度コンサルティングを、進め方の全体像についてはコンサルティングの進め方をご覧ください。


評価基準は、5ではなく3から書きます。3はその等級に期待する標準であり、この線が引かれて初めて5と1が決まります。4と2は中間として運用すれば足ります。
書くときの基準は、第三者が見て確認できるかどうかです。そして、全項目を書き上げる前に、1項目を実在の社員で試してください。
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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第4章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』