マネジメント
2026.10.20

何も言わないことは、何も伝えていないことではありません。部下には「見られていない」という意味で届いています。
フィードバック、つまりその仕事がどうだったかを言葉で返すことは、褒めることでも叱ることでもありません。行動を、起きた直後に、具体的に返す。この記事では、3つの基本と今週できることをお伝えします。
ある会社で、若手の方にこう伺ったことがあります。
「提出した資料について、上司から何か言われますか」
返ってきた答えは、こうでした。
「特に問題ないよ、とは言われます。それ以上は何も」
その上司の方にも伺いました。悪く言う意図はまったくありませんでした。
「よくやってくれているので、特に指摘することがないんです」。
褒めているつもりでも、叱っているつもりでもない。ただ、問題がないから何も言わない。管理職として、ごく普通の運用だと思います。
ただ、受け取る側には別のものが届いていました。
同じ若手の方が、続けてこう言いました。
「これで合っているのか、正直わからないまま出しています」
何も言われないという状態は、本人にとっては無音ではありません。見られていない、という意味を持った返事です。
そして、この状態が続くと、人は動きを小さくします。何かあれば責められるのは自分だと思えば、確実に通る範囲に収まるほうが合理的だからです。
社員が意欲を失う要因の一つに、やった仕事への承認や反応がないことがあります。これは上司の人柄の問題ではなく、返す技術と、返す時間を会社が用意していないという問題です。

まず、何を言うかです。
「君は丁寧だね」は、人柄の評価です。言われた側は嬉しいかもしれませんが、次に何をすればよいかは分かりません。
「前回指摘された箇所が、今回は全部直っていた」であれば、行動の指摘です。何がよかったのかが分かるので、次も同じことができます。
直すべき点も同じです。「詰めが甘い」では、どこをどう変えればよいか分かりません。「先方の確認を取らずに日程を押さえていた」であれば、次から確認を挟めます。
人柄を評価すると、相手は身構えます。行動を扱えば、相手は手を動かせます。
次に、いつ言うかです。
評価面談で半年分のフィードバックをまとめて伝えている会社は少なくありません。しかし、半年前の行動について「あの時のあれは」と言われても、本人はその場面を思い出せません。
思い出せないことは、直せません。
必要なのは、その場か、遅くとも数日以内です。長さは要りません。30秒で足ります。「さっきの説明、結論から入っていたのが聞きやすかった」。これだけで、本人はその行動を再現できるようになります。
なお、面談の場で伝えること自体は否定しません。日常で返してきたことを、面談で整理する。この順序であれば機能します。1on1を場として機能させる条件については、1on1の形骸化を防ぐ|続かない会社に共通する3つの条件をご覧ください。

3つ目は、何について言うかの偏りです。
多くの職場では、問題が起きたときだけ声がかかります。うまくいっているときは何も言われません。
これが続くと、部下にとって上司からの声かけは「何か失敗した合図」になります。呼ばれた時点で身構える関係ができあがり、相談も上がらなくなります。
良かった点を返すのは、気分をよくするためではありません。どの行動を続ければよいのかを伝えるためです。続けてほしい行動を明示しなければ、本人には分かりません。
比率として、うまくいった点への言及が半分を下回っているなら、偏っていると言えるでしょう。
日々の関わり方の全体像については、社員のやる気がないと嘆く前に|行動が変わる3つの確認点をご覧ください。
ここまで3つの基本をお伝えしましたが、意識だけで続くものではありません。
管理職の方は、自分の業務を抱えたうえで部下を見ています。気づいたことを即座に返すには、まずその場面を見ている必要があります。報告が上がってくる経路がなければ、見る機会そのものがありません。
ですから、会社の側で用意するものが2つあります。
ひとつは、記録の習慣です。週に一度、各メンバーについて気づいたことを1行だけ書き留める。これがあるだけで、面談で思い出す作業がなくなります。
もうひとつは、技術を身につける機会です。行動で伝える、人柄で言わないという切り替えは、知識として知っていてもその場でとっさにできるとは限りません。練習が必要です。現場の指導が属人的になる構造については、OJTの属人化を防ぐ|「見て覚えろ」から教える職場へもあわせてご覧ください。

今週から着手できることを3つ挙げます。
1つ目は、長い言葉は不要です。「さっきのあれ、良かったよ」だけでなく、何が良かったのかを1文で足すだけです。
2つ目で数えられるほど少なければ、頻度の問題です。
3つ目で人柄の言葉が多ければ、伝え方の問題です。
どれが起きているかで、打つ手が変わります。
これらは数字になるので、経営に持っていけます。「もっとフィードバックをしましょう」という呼びかけでは動きませんが、「10人中7人には、1か月間ひとことも返していませんでした」という報告は動きます。
なお、伝え方の技術を管理職に身につけてもらう部分は、社内だけでは難しいことがあります。研修と職場のしくみをどう連動させるかについては企業研修のご案内を、報告の経路や面談の運用まで含めた進め方についてはコンサルティングの進め方をご覧ください。


何も言わないことは、「見られていない」という意味で届いています。
人柄ではなく行動で伝える。起きた直後に返す。良かったことも同じ頻度で返す。この3つが基本です。
そして、これは上司の意識ではなく、記録のしくみと練習の機会があって初めて続きます。
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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第1章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』