一見すると同質的に見える中に潜む、多様性に目を向けよ

先週、ご縁があって高卒採用支援のお仕事をしていました。受託業務のため詳細は申し上げられませんが、5日間かけて神戸と姫路の様々な高校を訪問してきました。はじめて知ること、はじめて体験することばかり。個人的には「知られざる高卒採用の世界」とばかりに、とても刺激的な一週間を過ごしました。

一言で高校と言っても、普通科、商業科、工業科、総合学科、定時制、通信制など様々な形態があります。しかし、当然ながら私が知っている世界は自分が辿ってきた道だけであり、それも厳密に言えば自分が通っていた学校だけです。それ以外のことはすべて、未知で未体験のことばかり。たとえ言葉としては知っていることではあっても、実際のところまったくわかっていなかったことを改めて感じました。

今回いろいろな高校を訪問し、先生方とお話しさせていただく中で、やはり現場を見て、現場で話を聞くことでしか得られない情報があるのだなと思い知りました。人はいかに、自分の経験してきた世界が、世の中のすべてであるかのように錯覚してしまうか。それをまざまざと見せつけられた気分です。

同質性の中にも多様性がある

様々な事情を抱えた生徒さんたちがいます。様々な状況に身を置き、様々な趣向、考え方を持った生徒さんたちがいます。世の中はダイバーシティ(多様性)だの、インクルージョン(包括)だの騒いでいますが、多様性とは必ずしも「明らかに異なる方々」に対してのみ指す言葉ではないのだと思います。一見すると同質の属性にも見えなくもない「日本の高校生」の中にも、様々な多様性があります。

外国人やハンディキャップの方に目を向けることももちろん大切ですが、「同質っぽさの中にある多様性」に目を向けることも大切ではないかと考えました。人数を考えたらこちらの問題の方が、むしろ深刻かもしれません。日頃あまり多くの人の目につかないところで、自己責任という言葉で片付けるにはあんまりな事情がそれぞれにありますが、ダイバーシティやSDGsのような「ブーム」として取り上げられる対象ではないこともあり、埋もれてしまっているように思います。

明確に異質なものに目を向けるのも必要です。どちらが重要ということはありません。しかし、一見すると同質的に見えそうでありながら、その裏に潜んでいる「目の前の多様性」に目を向けることも必要です。多くの人がそれに気づくことで、既存のビジネスの枠組みの中でも、様々な社会課題の解決に結びつくような気がします。

経済的な事情で進学を断念する人もいます。コロナ禍を契機に社会への適応が困難になった人もいます。通信制高校の入学者数が激増していることなど、これまでは思いもよりませんでした。今にはじまったことではありませんが、すでに就業中でありながら、高卒資格を得るため定時制高校に通っている人も決して少なくありません。

今回の一件で、自分が恵まれた環境に身を置いていたことを改めて自覚しましたし、自分の狭い世界観と偏った価値観で「デキる人を増やす」を唱えていたことにも反省があります。コンサルティングや研修を通じて努力と工夫を促して、仕事がデキる人を増やすことで社会に経済的・精神的・時間的な余裕を生み出すことが私の理念ですが、その念頭にそれぞれの方が置かれている環境や状況を置いておく必要があるのだと改めて思いました。

どんな人であっても、所詮ひとりが自分が知っている世界など、全体のごく一部に過ぎません。それを自覚する謙虚さが皆それぞれにあれば、世の中はもっと寛容で優しいものになるのではないかと思います。

大卒者は知らない?高卒採用の世界

私が新入社員研修を担当している企業様にも、例年、高卒採用の方がいます。大卒者と交じって受講いただいており、これまで何人もと接してきましたが、恥ずかしながら背景を何も知らずにいたのだなと反省です。

高校生の採用は、大学卒や専門学校卒の採用とプロセスが異なります。大学卒や専門学校卒の場合、志望する複数の企業の選考を受けて、内定した企業の中から入社する1社を選ぶのが通例だと思います。教授から懇意の企業を紹介、推薦される場合もありますが、それでも選考を受ける企業を複数、自由に選ぶことができます。選考するのは企業側で、試験や面接を通じて採用者を選び抜いていきます。

高校生の場合、もちろん自分で志望先企業を見つけてきて自らアプローチする場合もありますが、多くは原則として学校に寄せられている求人の中から1社を選んで選考を受けます。7月から8月にかけて行われる一次募集では、応募できるのは1社のみで、校内で同一の求人に募集人数以上の応募があった場合、まず選考をするのは企業ではなく学校です。成績や素行などを考慮して選び、企業に推薦します。

募集定員を超えていない限り、学校からの推薦者を企業側から断ることは滅多になく、たいていはこれで内定が決まります。つまり、一次募集の段階では掛け持ちでいくつもの会社の選考を受けることはできず、どこに就職するかを短期間で吟味して、自分が行きたい1社を選び抜く必要があります。当然、求人は複数の学校から寄せられているため、応募総数が企業の募集定員を上回れば企業側でも選考が行われ、そこで内定をもらえなかった生徒は9月以降に行われる二次募集に応募します。ここでは、複数の企業に応募可能です。

少子高齢化の影響もあり若い世代の人口が減少していることに加え、大学や専門学校への進学率も年々上がっているため、高校卒業後に就職する生徒の人数は減少の一途を辿っています。そのため、求人数は就職志望者数よりも遥かに多くなってしまい、生徒たちが「選びたい放題」になることも珍しくありません。売り手市場は高卒採用でも同様なのです。企業側にとっては、いかに自社の求人を生徒の目に止めてもらえるか、先生に推薦してもらえるかが重要になります。そのため、求人が解禁になる7月1日以降は、多くの企業が学校を訪問して進路指導の先生方にお目にかかり、自社の認知度やイメージの向上に努めるわけです。

新たな経験を積むにも、お金が必要

今回ご縁あってお声がけいただき、企業側の高卒採用の支援をさせていただきました。動機は至ってシンプルで、自分が知らない世界を見せていただけるからです。実際、私にとってはとても貴重な機会となりました。「勉強になった」なんていうレベルではなく、自分の狭い世界観を広げ、価値観を柔軟にしてくれるとても良い機会になりました。

チャレンジできたのは、ありがたいことに日頃のお仕事が順調だからです。概して、自分が習熟している仕事であるほど、生産性も単価も高くなります。慣れないことや、自分のスキルや強みを活かせないような仕事をするとなると、普段に比べて単価や工数が「割に合わない」といった面も否めません。もし本業が不調でお金や時間に余裕のない状況であったら、「新しいことを経験する」ことだけを目的に何かに挑戦をする余裕などなかったことでしょう。

私は日頃、長い職業人生を送るためには、常に新たな挑戦をして、自分自身の変化と成長を促していく必要があると説いています。しかし、実際にそれを実行するためには、先にお金や時間、心に余裕が必要になるという面も否めず、なんとも逆説的だなと思います。

自身の成長に向けて新たな経験を積むためにも、お金が必要になる側面があります。時代が変わっても、自分が歳をとっても、稼ぎ続ける力を得るためにも、まずはいま稼ぎましょう。仕事の結果としてもらえるお金は、顧客や社会に貢献したことへの対価です。いま置かれている環境の中で、より多くの人々に、より効果的に役立つには何をしたら良いかを考えて仕事をし、成果をあげて稼ぎ、将来の自分自身に対する投資の元手をつくっていくことが重要ではないかと私は考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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