DX人材に必要なのはITスキルよりも○○○○○

先週、ある企業様でDX人材養成講座を行いました。DXとはDigital Transformationの略で、直訳すると「デジタル変革」。デジタル技術を使って、組織マネジメントや業務プロセス、商品・サービスの顧客提供価値などを、従来とは大きく異なるものへと変革させることを指します。

先週リリースした動画でDXについて解説をしていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

「DX人材」や「デジタル人材」と言うと、AI(人工知能)をはじめとした最新テクノロジーに精通するエンジニアのような人物をイメージする方もいらしゃると思います。もちろん、そうした人々はこれからのデジタル時代を牽引する第一人者となっていくでしょうし、紛れもなく「DX人材」「デジタル人材」だと言えるでしょう。

しかし、皆が皆そのような人になれるというわけではありませんし、技術を作る人ばかりが増えたとしても、それを使う人がいなければ世の中に浸透し、社会の発展にはつながるとは言えません。広い意味での「DX人材」とは、デジタル技術を使うことで、自社の事業やマネジメント、商材を大きく変えていける人のことを指します。

こうした人たちにとっては、必ずしも高度なITスキルは必要ありません。もちろん一定レベル以上のITリテラシー(知識)は必要にはなりますが、自分でプログラムを書いたり、情報システムやツールを使いこなしたりする技術が必要になるわけではありません。「どういう技術を使えば、何ができるのか」が理解できていれば十分だとも言えます。

むしろ、デジタル技術を使って「変革」を起こすためには、ITリテラシーよりもはるかに重要なものがあります。先日の講座で受講者の方々からリアルな現場の話を伺う中で、その認識を改めて深めるとともに、新たに気づいたことがありましたので、今回はそれをお話ししたいと思います。

ほとんどの会社はDXを目指せる状態にすらない

世に溢れるビジネス誌やwebサイト、セミナーなどの情報を見ると、DXはとてもキラキラした近未来的なもののように映ります。

AI(人工知能)、5G(第5世代移動通信システム)、IoT(モノのインターネット化)、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、ブロックチェーンなど、最新のハイテクを用いて事業や業務の自動化や仮想化、イノベーションを起こしていくのがDXであり、そのためにハードウェアやアプリケーションに投資をしていきましょうという話に結びつく。

もちろん、それらのハイテクをうまく使うことができれば、事業や業務のあり方は大きく変わるでしょうが、実際のところほとんどの会社はそうしたハイテクを「使える状態にすらない」というのが実情でしょう。

業務処理を自動化するような高度な技術を活用するためには、業務フローがすでに完全にデジタル化されている必要があります。データが自動的に生成され、操作が容易なように構造化されていて、ロボットが使用できるように一元的に管理されている状態でなければ、コンピュータが自律的に業務を行えるはずもありません。

具体的に言えば、物理的な操作を必要とする工程が業務フローの中に1ヶ所でもあると、その時点で最新技術をフル活用することができないのです。紙の契約書や請求書、紙情報のデータ手入力、PDF形式でのデータ保存などが業務フロー上に1ヵ所でも存在していると、人の手を介在させない限り業務の流れが止まってしまいます。それ以外の部分をコンピュータが半自動的に処理できるようにしたとしても、それは既存の業務フローを維持したまま一部の工程を効率化したに過ぎず、およそTransformation(変革)とは言えないのです。

DXとは、データの流れにとって最も最適な状態に業務フローを組み替えることにより、それに合わせて組織やマネジメントを再構築することです。その結果、既存の組織を解体したり、適任者が変更になることもしばしばで、むしろ既存の体制を保持したままになっているのはDXが起きていないことの現れだとも言えます。

ほとんどの会社は、本来的な意味でのDXに起こせる段階にすらないのです。キラキラした近未来的なハイテクに飛びつく前に、もっとやるべきことがあります。すでにあるデジタルツールをちゃんと使いこなせるよう、運用を徹底させることです。

DX人材に最も必要なのは

  • グループウェアを導入したが、スケジュールをちゃんと入力している人もいれば、入力していない人がいる
  • 社内のコミュニケーションにビジネスチャットを導入したが、依然としてメールでのやりとりが続いている
  • スマートフォンを導入したが、過度な(不正確な)セキュリティ対策のため、業務データやアプリケーションの利用を禁止して、ほぼ電話と地図アプリくらいしか使っていない
  • SFA(営業管理管理システム)を導入したが、従来型の日報を並行運用したり、会議用の資料を手作業で別に作っている

現場から上がってくるのは、こんな話ばかりです。すでにあるITシステムですら、使いこなしてているとは言えないレベルです。こんな状況でさらに高度な技術を導入しても、運用がまったく追いつかないのが目に見えています。デジタル技術を使って、劇的な生産性向上やイノベーションを目指すのであれば、デジタル技術を使いこなせる組織づくりが必要です。そのために必要なのは、今すでにあるITツールを使いこなすことです。

そのために必要なのは、導入したツールやシステムを積極的に使っていこうと、周囲に働きかけて変革に巻き込んでいく「巻き込み力」や、新しい取り組みが社内での本流の動きになるように、抵抗勢力との勢力分布を塗り替えていく「社内政治力」です。必ずしも高度なITスキルが必要なわけではありません。人を動かす力こそが、DX人材に求められる最重要スキルです。

時代の最先端にすぐに追いつこうとする必要など、まったくありません。紙の契約書をクラウドサービスに変える。紙の注文書や注文書を電子情報に変える。決して新しいとも言えないレベルの技術ですが、それを導入してまずアナログをデジタルに変える。そして、導入済の情報システムの運用を徹底させる。例えば、ビジネスチャットや社内SNSを定着させたいなら、社内でのメール送信を禁止するくらいの施策が必要です。

それができるのは、いわゆる「IT人材」ではなく、むしろ経営者や管理上、社内での経験と人脈をつちかってきたベテラン社員です。こうした方々が率先して動き、周囲を巻き込んでいくことで、変革の流れを作っていくことができます。DXはボトムアップで起こるものではありません。強力なリーダーシップによるトップダウンが必要なのです。

デジタル技術は、目的を実現するための手段でしかありません。DXの目的はあくまでも、高い付加価値を生み出すことや、生産性を飛躍的に高めることであり、そのために既存の組織、マネジメント、業務フローを変革することです。

「自分はITとかよくわからないから」と他人事になって情報システム部に丸投げするのではなく、事業部門が当事者意識を持って変革に取り組んでいくことが、DXに最も求められることだと言えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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